日本三大秘境の1つにも数えられている宮崎県椎葉村(しいばそん)で、砂防堰堤(えんてい)の新設が進む。2020年9月の台風で土砂災害が発生した急峻な斜面復旧のため、地場の建設会社がICT(情報通信技術)をフル活用して十分な安全を確保しながら、無人化施工に挑む。
高さ1600m以上の山が連なる椎葉村の国道沿いで、未来型の遠隔土木工事を実施している。オペレーターが首から下げたリモートコントローラーで無人バックホーを操作して、掘削作業を進めている。
現場は2020年9月の台風10号で発生した土砂崩れの跡地だ。当時、斜面近くにあった建設会社の社屋などが土砂に巻き込まれ、4人が犠牲になった。その崩壊した法面下部に砂防堰堤を新設する。
堰堤を築く場所は地すべり警戒区域や急傾斜地特別警戒区域で、40度強の傾斜角を持つ山肌があらわになった急斜面がそびえる。施工途中の落石が予想された。そこでリスク回避のため、発注者の宮崎県は「無人掘削」を指定した。
受注者は旭建設(宮崎県日向市)だ。15年にドローン空撮事業部を立ち上げるなど、ICT(情報通信技術)をはじめ最新技術の活用に積極的に取り組んできた同社。だが、無人化施工は今回が初めてだ。
監理技術者を務める同社工事統括部門の河野義博土木部長は、「オペレーターも遠隔操作は未経験。そのため全体の効率は3割程度下がってしまうが、生産性より安全性を重視すべき現場は今後もあるだろうから、この機会に無人化施工の知見を得たい」と話す。
一方で、遠隔化で落ちた効率を上げる技術も試行している。積み込み荷重の遠隔管理だ。無人バックホーでダンプトラックに積み込んだ土砂の重量を正確に量る。
もともと重機の操縦席にあるボタンを押せば管理できるシステムがあったが、無人化の現場において、ボタンを押すためだけに操縦席に乗るのは本末転倒だ。そこで、遠隔で管理できるシステムをアクティオ(東京・中央)の協力の下、試行している。