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 大成建設が栃木県鹿沼市で建設中の南摩ダムで、異なる機種の自動化重機を複数台、同時に制御する技術の実証に挑んでいる。重機の動きを変えるなど、日々運用を改良。人工知能(AI)を使って作業員と重機の接触を回避する技術も取り入れた。コア材を持たない堤体構造が無人施工にうってつけのフィールドだった。

 現地で採掘した岩石を原料とするロック材が一面に敷き詰められた無人のフィールドを、転圧ローラーが直進して締め固めていく。締め固められて地面の色が薄くなった帯状の範囲をなぞるように往復し、その動きにはぶれがない。運転席は空っぽで、本来そこにオペレーターが座って持つはずのハンドルがひとりでに回っている。

南摩ダムの堤体工事で、無人の振動ローラーがまき出したロック材を自動走行で締め固めている(動画:日経クロステック)

 転圧ローラーの奥に目を凝らすと、無人のブルドーザーが走行している。前進してロック材の山の一部を敷きならした後、バック走行で戻り、進路を変えて残った山を押し広げていく。

南摩ダムの堤体工事にブルドーザー2台と振動ローラー2台による自動化施工を導入した。中央奥の高台の上に重機を管制するオペレーションルームがある(写真:大村 拓也)
南摩ダムの堤体工事にブルドーザー2台と振動ローラー2台による自動化施工を導入した。中央奥の高台の上に重機を管制するオペレーションルームがある(写真:大村 拓也)
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南摩ダムの堤体工事で、無人のブルドーザーがロック材の山を自動でまき出している(動画:日経クロステック)

 ここは大成建設が栃木県鹿沼市で施工中の南摩ダムの堤体上だ。同社が開発した自動運転重機の制御システム「T-iCraft(ティーアイクラフト)」で、ブルドーザーと振動ローラーを2台ずつ、計4台を同時に動かす。高さ86.5m、体積240万m3の堤体の自動化施工が進んでいる。

左岸上流側から南摩ダムの堤体工事現場を眺める(写真:大村 拓也)
左岸上流側から南摩ダムの堤体工事現場を眺める(写真:大村 拓也)
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 個々の重機の動きは右岸の高台に置かれたオペレーションルームから管理する。室内に並んだディスプレーには重機ごとの施工範囲や稼働状況、作業の進捗が映し出され、協力会社の水谷建設(三重県桑名市)に所属するオペレーター3人が監視している。

オペレーションルームでは協力会社の水谷建設の社員がディスプレー越しに重機を管理する(写真:大村 拓也)
オペレーションルームでは協力会社の水谷建設の社員がディスプレー越しに重機を管理する(写真:大村 拓也)
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個々の重機の施工エリアや作業の進捗、通信状況などを確認できる(写真:大村 拓也)
個々の重機の施工エリアや作業の進捗、通信状況などを確認できる(写真:大村 拓也)
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個々の重機はT-iCraft上であらかじめ指定した施工エリアの中を、位置情報を基に自動で作業する(写真:大村 拓也)
個々の重機はT-iCraft上であらかじめ指定した施工エリアの中を、位置情報を基に自動で作業する(写真:大村 拓也)
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オペレーションルームのディスプレーに映した自動化重機の管理画面。2台のブルドーザーの動きと画面上のアイコンの動きが連動している(動画:日経クロステック)

 大成建設は2020年に水資源機構が発注した南摩ダム本体建設工事に、自動化施工の技術提案を盛り込んだ。同社土木本部機械部メカ・ロボティクス推進室の中野正晴室長は「自動化重機で作業効率を高める場合、広い施工現場で単純かつ単調な作業を自動化すれば効果が大きい」と、T-iCraft導入の狙いを説明する。

 特に、南摩ダムは一般的なロックフィルダムと比べてロック材をまとめて施工しやすい。堤体内部に遮水機能を持つコア材を配置する代わりに、堤体の上流側表面にコンクリートを打設して遮水する構造だからだ。ロック材の施工範囲がコア材で分断されない。自動化重機を使った無人施工を推し進める大成建設にとって、貴重な技術検証の場となった。