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 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は日本で数少ない半導体のプロ経営者だ。エルピーダの破綻から10年、ここ数年関わっていた中国・紫光集団を2021年末に離れ、フリーになった。そこで、中国半導体産業の現況、日本の半導体産業再興に向けた課題などについて、もろもろ語ってもらった。今回は今や世界最大かつ最先端の半導体受託製造(ファウンドリー)企業に育った台湾積体電路製造(TSMC)が躍進できた秘訣を聞いた。(聞き手は小柳建彦)

質問

 坂本さんはテキサス・インスツルメンツから1997年に神戸製鋼へ移籍し、その後2000年には台湾系の日本ファウンドリー〔親会社は台湾・聯華電子(UMC)、後にUMCジャパンに社名変更〕の社長に就かれます。米企業、日本企業の半導体事業を経験された後に台湾企業の、しかもファウンドリーという業態の会社の指揮を執ることになったわけですが、入ってみてどんな発見がありましたか。

坂本さんの答え

 台湾のファウンドリーが、いろいろな顧客の信頼を得ながらいかに利益を出すかという経営モデルについて、とことん考え抜いていることに、良い意味で衝撃を受けました。

坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
(写真:加藤康)

工場内に顧客企業の社員がわんさか

 日本ファウンドリーに入ってまず、台湾UMCの創業会長(董事長)の曹興誠(Robert Tsao)氏に、会いに行きました。そこで、「ファウンドリーというのはサービス産業だ。(製造業のような)テクノロジー産業ではないんだ」とくぎを刺すように言われました。

 UMCは90年代後半にIDM(自社ブランド半導体メーカー)から専業のファウンドリー業態に転換した会社です。それだけに経営戦略に強烈な信念を持っていたんですね。

 その後、工場に行ってクリーンルームの中も含めて見せてもらうと、そこには米インテル(Intel)だの米クアルコム(Qualcomm)だの、UMCに生産を委託している半導体メーカーのブースがいくつもあって、それぞれのメーカーの社員たちがアメリカから長期出張で来てUMC工場の中で仕事をしてるんです。自分たちの発注したチップがどのプロセスを流れていてどんな状態になっているか、UMCの担当者から話を聞きながら自分の目で確認して、リアルタイムで現場からアメリカの本社に報告している。あ、なるほどな、と思いました。これは工場を使ってもらうサービスなんだなと。

 僕がそれまでやってきたような半導体メーカー、つまりIDMでは工場の中は機密の塊です。だから普通は部外者の立ち入りは厳禁にします。ところがUMCは工場の中に他社の人たちを入り浸りにさせている。そのわけは、自前の製品を造っていないから発注者に対して隠すべき秘密がないんです。