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 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は日本で数少ない半導体のプロ経営者だ。エルピーダの破綻から10年、ここ数年関わっていた中国・紫光集団を2021年末に離れ、フリーになった。そこで、中国半導体産業の現況、日本の半導体産業再興に向けた課題などについて、もろもろ語ってもらった。今回は坂本さんが日本ファウンドリー時代に仕掛けた大規模ファウンドリー構想が頓挫したいきさつを聞いた。(聞き手は小柳建彦)

質問

 坂本さんは2000年に日本ファウンドリーの社長に就かれるとすぐに歩留まりを大きく改善させ、毎月のように月次利益で過去最高を更新していました。その年の後半になると、シャープやソニー(現ソニーグループ)が日本ファウンドリーに出資する話が浮上しますね。あれはどういう動きだったのでしょう?

坂本さんの答え

 日本にも規模の大きい半導体受託製造(ファウンドリー)があったほうがよいと考えて電機業界に提案して回ったのです。何社かから賛同も得られたのですが結局、構想は実を結びませんでした。

坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
(写真:加藤康)

トップが積極的なのに副社長は「ゆっくりやりましょう」

 僕が社長に就任して確かに日本ファウンドリーのパフォーマンスは上がったのですが、いかんせん工場の規模が小さすぎた。いくら効率を上げても規模が絶対的に足りないから、コストなどの点で韓国や台湾の企業との競争はまともにできないなと悟りました。

 そこで、日本の大手電機メーカーの何社かの人に提案してみたんです。台湾UMC(聯華電子)が半分出資して、残りの半分を日本の大手電機メーカー何社かが出資するようなジョイントベンチャー方式で、日本にも大きなファウンドリーを作りませんかと。具体的にはシャープのほかに、NECやソニーなどと話をしました。

 自社の製造キャパシティーの不足に悩んでいた各社の事業部長クラスの人々からは「それは是非やってくれ」ともろ手を挙げた賛同を得ました。たとえばソニーはヒットしていたコンパクトディスクプレーヤーなどを作るチップセットが足りなくて、機会損失が出て困っていたのです。日本ファウンドリーとしても、ソニーのチップを造れれば大きな収益源になる。ということでかなり説得力のある構想だったのです。

 事業部クラスの人は是非やってくれ、社長に提案してみてくれと言います。そこで実際に、その会社の社長に会いに行って提案してみました。すると社長も、それはいいアイデアだと言って賛同してくれたのです。

 その社長はとても積極的で、明くる日には社長の方から直接電話がかかってきて改めてぜひ前に進めたいと言ってきました。ついては技術担当の副社長を担当にするので彼と話をしてほしいと指示されました。

 ということで副社長に会って話してみたんです。するとその副社長は、とてもいいアイデアですがゆっくり進めていきましょうと言います。社長との話の感触とは逆に、どうもあまり前向きでない雰囲気です。これは前に進まないかなと、嫌な予感がしたのですが、案の定、その会社からの出資は実現しませんでした。