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 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は日本で数少ない半導体のプロ経営者だ。エルピーダの破綻から10年、ここ数年関わっていた中国・紫光集団を2021年末に離れ、フリーになった。そこで、中国半導体産業の現況、日本の半導体産業再興に向けた課題などについて、もろもろ語ってもらった。今回は社長就任後わずか1年でエルピーダを黒字化できたのはなぜか、その原動力を聞いた。(聞き手は小柳建彦)

質問

坂本さんが2002年11月に社長へ就いてわずか1年程度で、エルピーダメモリはNEC広島の工場の吸収統合を実現する一方で、同じ敷地の自社工場の能力増強を進めます。そして2004年1~3月期には最終損益の黒字転換を果たします。この間、いったい何が起こっていたのでしょうか。

坂本さんの答え

 前回、NECや日立製作所の半導体事業幹部のやる気のなさをお話ししましたが、対照的にエルピーダの設計・開発やNEC広島の工場の現場スタッフはものすごく優秀でした。だから経営を半導体業界で標準的なやり方に変えるだけで、組織全体のパフォーマンスがぐんぐんと良くなっていったのです。

坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
(写真:加藤康)
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工場のオペレーターは優秀だった、生かせる人材がいなかっただけ

 NEC広島の工場の歩留まりは最初なかなか上がりませんでしたが、僕自身が広島まで行って歩留まりレビューに参加して、問題点の洗い出しや改善策の進捗について直接現場に問いかけるうちに、目に見えて現場のモチベーションが上がっていくのが分かりました。製造プロセス開発のミーティングにも自ら出ました。NEC広島から工場をエルピーダ側に引き取ってからは、ミーティングで要望が出た30億円程度の装置購入ならその場で即断即決するようにしたのも大きかったと思います。

 チップを形成するシリコンウエハー投入から最終アウトプットまでの「サイクルタイム」を短くできれば、製品のコストが下がる一方で、設計更新やプロセス開発の検証にかかる時間が短くなって、会社全体として新製品や新プロセスの開発スピードが上がるんです。そのためには設計、製造プロセス、ラインのオペレーションの担当者が意見をぶつけあって、改善策をスピーディーに決めていけることが大事です。

 問題点の洗い出しの過程で装置を新しくしないと解決できない問題に直面する場合があります。そこに僕自身がいれば、すぐに発注してくれと言いました。装置を入れて動かしてみると、すぐに歩留まりが上がるなど、結果が出る。そんなスピード感で物事が前に進めば、現場はやる気が出ますよね。

 そのような過程で明らかになったのは、人材の優秀さです。いくらやり方をよくしても、それを生かせる人材がいないと成果は出ないものです。工場のオペレーションは地元出身の高卒社員たちが中心でしたが、みんなとても優秀でした。NECの知名度を生かし、選び抜いて採用できていたんだと思います。