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 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は日本で数少ない半導体のプロ経営者だ。エルピーダの破綻から10年、ここ数年関わっていた中国・紫光集団を2021年末に離れ、フリーになった。そこで、中国半導体産業の現況、日本の半導体産業再興に向けた課題などについて、もろもろ語ってもらった。今回はエルピーダを対等出資で設立した2つの親会社、NECと日立製作所と坂本さんの関係を聞いた。(聞き手は小柳建彦)

質問

エルピーダメモリ社長就任から1年後の2003年11月、米インテル(Intel)を中心とする企業群から合計約1700億円の資金調達に成功。さらに1年後の2004年11月には東京証券取引所第1部上場に伴って約1000億円を調達します。母体企業であるNEC、日立製作所から徐々に独立していったわけですが、両社から抵抗はなかったのでしょうか。

坂本さんの答え

 あのとき出資してくれたインテルなどの方が、NECや日立よりエルピーダの将来にずっと前向きだったと思います。日立に至っては僕が社長になってから1年もたたないうちに、「エルピーダを畳みたい(クローズしたい)」と言ってきたほどです。

坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
(写真:加藤康)

日立の部長級がエルピーダを「畳みたい」と言ってきた

 僕はエルピーダの社長になるに当たって、NECと日立が一切経営に口出ししないと契約書に明記することを条件にしました。経営報告はするが、許可が必要な事項はない。ただし100億円以上の大型投資には株主の同意が必要という条件だけは受け入れました。だから、組織の階層をいじろうが、独自の資金調達に動こうが、そこには干渉は一切ありませんでした。

 裏を返すとエルピーダに対して大した期待もなかったのではないでしょうか。というのも、例えばこんなことがありました。

 僕が社長として入って1年もたっていなかった頃です。日立の経営企画関連の部長クラスが突然会いに来た。急になんだろうと思ったら、「エルピーダを畳みたい。ついてはいつごろまでに畳めるか教えてほしい」と言うのです。いったい何を言っているのかとただすと、「庄山(悦彦)社長が畳みたいと言っている」と言います。

 僕はあきれて、そんな大事な相談があるなら庄山社長自身が直接僕に言ってくるべきだろうと突き返して、帰ってもらったんです。そうしたらその後何も言ってこなくなりました。日本の大会社って恐ろしいなと思いましたよ。

 恐らくは、グループ経営改革案でも検討していたチームが思い付いただけで、庄山社長自身のアイデアではなかったんだと思います。仮に僕が承諾して、そういう方向でコンセンサスがつくれたら、自分たちの手柄として庄山さんまで上げようというくらいに思っていたのではないでしょうか。