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 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は日本で数少ない半導体のプロ経営者だ。エルピーダの破綻から10年、ここ数年関わっていた中国・紫光集団を2021年末に離れ、フリーになった。そこで、中国半導体産業の現況、日本の半導体産業再興に向けた課題などについて、もろもろ語ってもらった。 今回はエルピーダが当時持っていた技術的な優位性を坂本氏に解説してもらった。(聞き手は小柳建彦)

質問

2012年2月にエルピーダメモリは資金繰りに行き詰まり、会社更生法の適用申請に踏み切りました。その結果、米マイクロンテクノロジー(Micron Technology)が総額2000億円を投じてエルピーダの工場や人材を丸ごと手に入れ、その後は旧エルピーダがマイクロンの最先端技術の開発拠点となっています。つまり、財務の問題を乗り越えていれば、エルピーダは十分国際競争で戦える強い技術力を持っていたといえますね。

坂本さんの答え

 破綻した時点のエルピーダの技術競争力が世界と戦える強さだったのは間違いありません。現在主流になっているスマートフォン向けで低消費電力のモバイルDRAMを他社に先んじて製品化し、米アップル(Apple)からも高く評価されていました。

坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
(写真:加藤康)

政投銀が借り換えの約束をほごに、民主党政権でなければ……

 旧エルピーダの広島工場を中核とするマイクロンメモリジャパン(東京・港)はマイクロンのグローバルオペレーションの中でも最先端DRAMの製品開発と製造プロセス開発の中核になっています。広島でまず量産に成功した技術を台湾などの工場に移植する体制でやっています。

 振り返れば買収完了後の2013年8月時点で、エルピーダの広島工場は台湾のDRAM各社の工場よりも生産コストが低い状態でした。赤字企業ではなく、十分利益が出る状態でエルピーダをマイクロンに引き継いだのです。

 いまさら言っても仕方ないのですが、1ドル=80円を下回る超円高など異常な外部環境の逆風と債務の返済期限が重なってしまったあの時期さえ乗り越えられていれば、大手DRAMメーカーとして今に至るまで生き残っていたのではないか。それくらいの競争力があったと僕は考えています。

 債務の返済についても寝耳に水のようでした。2011年の秋まで主力銀行はみんな、翌年春に期限が来る融資の借り換えに応じると言っていた。ところがその後、株主であり銀行団のリーダー役だった日本政策投資銀行(政投銀)が急に借り換えに応じない方針に転換したのです。思えばあれが運命の分かれ目でした。政投銀が応じないならウチもと、他の銀行がこぞって応じなくなり、結局2012年3月の返済期限に間に合わず時間切れになりました。政投銀の突然の方針転換がなぜ起こったのか、今でも不可解です。

 2009年に産業活力再生特別措置法(産業再生法)の第1号案件として300億円の公的資金を政投銀による出資の形で入れてもらったときの経済産業大臣だった自由民主党の二階敏博さんには、更生法適用になった後に「残念なことをしたな」と同情の言葉を頂きました。当時は民主党政権でしたから彼としても何もできなかったのです。あのとき、もし自民党政権が続いていたならまた違った判断になっていたのかもしれません。