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世界の半導体企業はみんなまず製品開発

 世界の半導体企業を見れば、みんな製品開発のところにフォーカスしています。何を実現するためにどんなチップを作るのか。それが事業の肝だと分かっているからです。

 たとえば米エヌビディア(NVIDIA)なら3次元コンピューターグラフィックス処理を高速化する「GPU(画像処理半導体)」を作ろうというところから事業が始まりました。米クアルコム(Qualcomm)は常に携帯通信の核となる通信チップで世界標準を取ることを狙っています。米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)でさえ設計に特化して、インテル互換CPUで本家の米インテル(Intel)を脅かすような存在になりました。いずれも製造はTSMCなどのファウンドリーに外注です。

 日本でも、工場よりもまず、国際競争力のある半導体設計会社をいくつか作ることにフォーカスすべきです。今いくつかあるスタートアップを強化していってもよいし、方々に散らばっている優秀な技術者を再び集めてオールスターのファブレス半導体メーカーを新しく作ってもよいと思います。

 僕の米テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments、TI)時代からのアメリカ人の友人がもう70歳台半ばなんですがロジック半導体のスタートアップを経営しています。エヌビディアよりも格段に処理速度が速いプロセッサーを作る技術があり、ベンチャーキャピタルから資金が集まったといいます。

 驚くのはその会社の研究開発資金は年間たったの20~25億円だといいます。プロダクト戦略なしの古い技術の工場に6000億円も血税を使うより、先端的なファブレスのスタートアップに数十億円ずつ投資する方がよほど有効なおカネの使い方ではないでしょうか。(談)

【用語解説】

半導体受託製造(ファウンドリー) 自社の半導体製造ラインを使って他社が設計した半導体を受託製造する事業。世界1位は専業の台湾積体電路製造(TSMC)。米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の製造部門を母体とし、AMDとアブダビ首長国の投資会社アドバンスト・テクノロジー・インベストメント(ATIC)が合弁で運営する米グローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)や台湾・聯華電子(UMC)などの専業に加えて、半導体大手の韓国サムスン電子(Samsung Electronics)、米インテル(Intel)なども自社工場を使ったファウンドリー事業を手掛ける。

台湾積体電路製造(TSMC) 世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリー)。台湾新竹市に本拠を置く。

ナノ(メートル) ここでは半導体の製造技術のレベルを示す。小さいほど技術レベルが高い。もともとは微細加工で作れる最小のゲート長を指していたが、現在では技術レベルや世代を大まかに示す言葉になっている。

ファブレス fabless。自社では工場を所有せず製品の企画や設計のみ担って製品の製造自体は外部に委託する企業形態やそのようなビジネスモデルを指す。ファブレスは造語で「工場(fab=fabrication facility)がない(less)」を意味する。製品の企画設計や開発だけに専念でき、設備投資や設備維持のリスクから解放されるため、外部環境の変化に対応しやすいなどのメリットはある。特に技術革新が急速で製品のライフサイクルが短く、設備投資の負担が大きい半導体製造業界で広く取り入れられている。

GPU(画像処理半導体) Graphics Processing Unit。3次元グラフィックスのレンダリング処理など画像処理を高速に実行するために設計されたプロセッサー。小さな処理ユニットを多数搭載し、作業を細かく分割して並列に処理することで性能を高める構造になっている。当初はパソコンの画像処理向けに開発されたが、最近はディープラーニングなどのAI(人工知能)や仮想通貨マイニングなどの用途で、汎用の並列処理プロセッサーとして使われるようになっている。

ロジック半導体 スマートフォン向けSoCやパソコン用MPUなど演算機能を担うように設計された半導体。高性能な最終製品ほどロジック半導体の微細化による性能向上やコストダウンの効果が見込めるため、最先端の製造プロセスを開発・適用する主戦場となっている。

次回の「坂本さんに聞いてみた」

坂本 幸雄(さかもと・ゆきお)氏
ウィンコンサルタント代表・東京理科大学客員教授
坂本 幸雄(さかもと・ゆきお)氏  1970年日本体育大学体育学部卒。高校の体育教師を目指していたが採用がかなわず、日本テキサス・インスツルメンツ(TI)に入社した。
 TIでは倉庫番からのキャリア・スタートであったが次第に頭角を現し、89年からは米TI本社でワールドワイド製造・プロセス・パッケージ開発本部長を務め、91年に帰国して日本TI取締役、93年副社長。97年9月に神戸製鋼所へ移り、98年10月半導体事業本部長。2000年2月には日本ファウンドリーへ移り、同3月から社長。02年11月にエルピーダメモリへ転じて社長、03年1月に社長・最高経営責任者(CEO)へ就任した。
 エルピーダメモリでは、就任前年まで3年連続200億円以上の赤字が続いていた状況を改善。わずか1年で年間150億円の利益が出るまでに立て直すなどの経営改革を成功させる手腕を発揮。その後も順調に業績を伸ばしたが、リーマン・ショック後に収益性が悪化。公的資金の注入も受けて存続の道を探ったが12年2月に会社更生法の適用を申請、13年7月の米マイクロンテクノロジーへの売却完了に伴い、社長・CEOを退任した。
 15年に半導体設計会社のサイノキングテクノロジーを設立、中国安徽省合肥市の先端半導体工場プロジェクトへの参加を目指した。2019年11月に中国紫光集団高級副総裁兼日本子会社CEOへ就任。同社の経営悪化に伴い、2021年12月をもって同職を退任した。現在は台湾エイデータ・テクノロジーほか、いくつかの企業の顧問を務める。1947年生まれ、74歳。(写真:加藤康)
小柳 建彦(こやなぎ・たけひこ)
日本経済新聞編集委員兼論説委員
 1988年日本経済新聞社編集局入社。 経済部、日経ビジネス編集部、 証券部などを経て2001~03年に米シリコンバレー支局、03~05年同支局長。 05年から産業部ネット・メディア・通信・IT担当。 06年から企業報道部(旧産業部)編集委員(現職)。09~12年には電子版開発ディレクターを兼務し、『日経電子版』の立ち上げに関わった。13年11月~15年3月Nikkei Asian Review(現Nikkei Asia)創刊発行人。14年からシンガポール、バンコク、ムンバイに駐在。21年4月から東京で現職。