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 元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は日本で数少ない半導体のプロ経営者だ。エルピーダの破綻から10年、ここ数年関わっていた中国・紫光集団を2021年末に離れ、フリーになった。そこで、中国半導体産業の現況、日本の半導体産業再興に向けた課題などについて、もろもろ語ってもらった。 今回は日本の企業にチャンスのある半導体の製品分野について坂本氏の考えを聞いた。(聞き手は小柳建彦)

質問

 前回は、台湾積体電路製造(TSMC)の国内工場に投資するより先にまずどんな半導体を造るべきかという、ビジネス戦略を考えるべきだというお話でした。DRAMは全社が脱落し、NANDフラッシュメモリーはキオクシアホールディングスが孤軍奮闘で頑張っているのが今の日本の状況です。これから新たに日本が世界のリーダー的なポジションを取れる半導体があるとすればどんな分野でしょう。

坂本さんの答え

 アナログ半導体とディスクリート半導体は再編・集約すれば十分世界大手の一角になれます。それからロジック半導体の設計技術は半導体産業の最も大事なところなので諦めてはいけません。自動車の自動運転向けに、AI(人工知能)プロセッサーの設計会社を自動車業界と協力してつくってはどうでしょう。

坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
坂本幸雄(さかもと・ゆきお)氏
(写真:加藤康)
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アナログとディスクリートは戦える、ただし集約すれば

 日本では今10社以上のメーカーがアナログ半導体を造っていて、合計すると世界シェアがだいたい13%前後になります。まずこれを1~2社に集約すべきです。現在アナログ最大手の米テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments、TI)のシェアは世界のざっと2割で、既にすごく高収益な事業になっています。ですから、13%のシェアを1社で確保できる体制を作れれば、稼げるビジネスになるはずです。

 ディスクリート半導体でも日本企業が合計25%程度の世界シェアを持っています。これを1社に集約して、R&D(研究開発)や生産設備に集中的に投資すれば、技術競争力とキャパシティー(生産能力)が上がって、世界で半分くらいのシェアだって取れるようになると僕は思っています。

 というのも、今はどの企業のディスクリート半導体事業も、東芝だとか富士電機といった コングロマリット(複合)企業の色々な事業の中の1事業扱いになっているからです。これでは、半導体事業に最適化した投資が十分できません。各社の部門を切り出して1つに統合して、ちゃんと資金調達して投資できるようにすれば、かなり競争力がアップするはずです。

 ただ特に日本では、そのような業界再編とか集約が、なかなか当事者同士で進められない現状があります。こういう領域こそ、政府がビジョンを持って呼びかけるべきではないでしょうか。もちろん拒否する企業もあるでしょうが、その結果5年後にその会社がどうなっていて、一方で統合した会社がどうなったかをきちんと検証すれば、経営者の能力も透明に評価されるようになって日本の産業全体の競争力が増すはずです。