シャープのIT部門がここ5年間で激変している。2016年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となって以降、ベンダー依存からの脱却を進め、情報システムを「内製」する体制に大きく舵(かじ)を切った。エンジニアの中途採用や社内育成を徹底し、IT人員は5年で9倍に拡大。ベンダー顔負けの開発力を着実に身に付けている。知られざるシャープIT部隊の全貌に迫る。
激変のシャープ、鴻海傘下で突き進む「システム内製」の覚悟(2)より続く組織を拡大し、ここ5年間で着々と情報システムの内製化を進めてきたシャープ。自社データセンターの立ち上げやデータ連携ソフトの独自開発、メインフレームからの脱却など、ベンダーに依存しない開発体制で数々の独自のIT施策を実行してきた。
ただ、これまで全ての取り組みが「きれいな」成功ばかりではない。時にはシステムトラブルに見舞われるなど、いくつもの壁に突き当たっている。
マスク販売でアクセス殺到、別システムのトラブルを誘発
2020年4月21日、シャープが一般消費者向けにマスク販売に乗り出したときのことだ。ここで予想だにしないトラブルがIT部門を襲った。
シャープ製不織布マスクは当時、注目の的だった。2020年4月、政府向けにのみ提供していた同社製マスクが一般向けに販売されることが伝わると、SNS(交流サイト)でたちまち話題を集めた。新型コロナウイルス禍でマスクの入手が困難な状況が続いていたことに加え、日本の老舗家電メーカーが手掛けるマスクということもあり、同社製マスクへの期待は高かった。
実際、2020年4月21日午前10時に自社のEC(電子商取引)サイトで販売を始めるとアクセスが殺到。ファイアウオールのアクセス制限の機能が作動するなどして、長時間にわたってサイトにアクセスできない状態が続いた。
アクセスが集中してサイトにつながりにくくなることはよくある話だが、問題はこれだけではなかった。マスクの販売とは関係ない、同社が手掛けるIoT(インターネット・オブ・シングズ)家電が操作できなくなる事象が発生したのだ。