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 シャープのIT部門がここ5年間で激変している。2016年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下となって以降、ベンダー依存からの脱却を進め、情報システムを「内製」する体制に大きく舵(かじ)を切った。自社データセンターへのシステム集約や、メインフレームからの脱却を自前で完遂、データ連携ソフトの独自開発など、ベンダー顔負けの開発力を着実に身に付けている。知られざるシャープIT部隊の全貌に迫る。

激変のシャープ、鴻海傘下で突き進む「システム内製」の覚悟(3)より続く

 エンジニアの中途採用や社内育成の徹底により、IT人員を5年で9倍にまで拡大してきたシャープ。着々と情報システムを内製する体制を築いてきた同社は既に、次に向けて動き始めている。

 「今後の当社のIT戦略において、極めて重要な拠点になることは間違いない」――。シャープのIT部門を統括する柴原和年ITソリューション事業部事業部長は、2022年4月に本格始動したベトナムのオフショア拠点についてこう話す。

シャープのベトナムオフショア拠点で働く従業員
シャープのベトナムオフショア拠点で働く従業員
(出所:シャープ)
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「米国では事業会社がオフショアを持つのは当たり前」

 シャープがベトナムのオフショア拠点の立ち上げに向けて動き出したのは2020年。翌2021年春に現地でのエンジニア採用を始め、同年夏ごろには試験的に開発や保守の一部業務で運用を開始した。

 「(運用開始後の)手応えは非常にある。もう少し早く本格始動させたかったが、新型コロナウイルスの影響で現地に行けず、どうしても時間がかかってしまった」と、ベトナムのオフショア拠点の立ち上げをリードするシャープの関郊治ITソリューション事業部DX推進部部長は話す。ただ、現地の責任者に据えるベトナム人材は2022年2月に入社が決まったばかりといい、「4月からが本格的な稼働になる」(関部長)。

関郊治ITソリューション事業部DX推進部部長
関郊治ITソリューション事業部DX推進部部長
(写真:宮田 昌彦)
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 関部長は外資系ITベンダーを経て2020年にシャープに入社した。前職ではフィリピンで日本法人向けのオフショア拠点立ち上げに携わるなど、10年以上にわたりオフショア事業に従事してきた経験を持つ。ベンダー時代に顧客としてシャープを担当したこともあるという。

 日本の事業会社が自らオフショア拠点を構える例は珍しい。システム内製に積極的なことで知られるホームセンター大手のカインズはインドにオフショア拠点を持つが、同拠点はインドIT最大手タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)との業務提携で実現しており、同社のリソースを活用する形で運用している。

 シャープのように、自社で現地のエンジニアを直接雇用しオフショア拠点を構える取り組みは日本企業では異例だ。「米国では事業会社が当たり前のように自社でオフショア拠点を持っている。内製に力を入れている当社が(オフショアを)立ち上げるのは自然な流れだ」(関部長)。