直列6気筒エンジンを新開発し、それを載せるFR(前部エンジン・後輪駆動)プラットフォームまで用意したのがマツダである。時代に逆行するような戦略に見えるが、開発担当役員への取材や新型「CX-60」の先行試乗などからマツダの狙いが浮かび上がってきた。世界シェア2%未満の自動車メーカーは、エンジンをリスクヘッジ(回避)策の中心に据えながら生き残りを図る。
「大変革の時代に向けて、企業のあり方や生き様を示す序章として開発した」。こう力を込めるのは、マツダ専務執行役員で研究開発・コスト革新統括の廣瀬一郎氏だ。
電動化の波が押し寄せる中でマツダが開発したのが、直列6気筒(直6)エンジンやそれを縦置きするFR(前部エンジン・後輪駆動)プラットフォーム(PF)「ラージ」(以下、ラージPF)などである。2022年4月7日、ラージPFを初適用した新型SUV(多目的スポーツ車)「CX-60」の日本仕様車を初公開した(図1)。
PHEVなのにすぐにエンジン始動
日本公開に先立つ同年3月下旬、マツダは報道関係者を山口県の「美祢自動車試験場」に招き入れた。テストコースにあったのはCX-60の試作車だ。同社初のプラグインハイブリッド車(PHEV)と、排気量3.3Lの直6ディーゼルエンジンを搭載する48Vマイルドハイブリッド車(簡易HEV)の2タイプを体験させた。
エンジンと共に生き抜く――。PHEVモデルに乗ってみると、マツダの決意が伝わってきた。
競合メーカーのPHEVは、一定速度域まではモーター駆動に限定して静粛性を訴求するものが多い。一方のCX-60は、アクセルペダルを少し踏み込むだけでエンジンがかかった(図2、3)。決して静かなクルマとは言えない。その点を開発担当者に問うと、「運転者の心が高ぶるように、あえてエンジン音が伝わるようにしている」と胸を張った。
欧州勢を中心に、電気自動車(EV)への急速な移行を宣言する自動車メーカーが増えてきた。新型エンジンの開発を中止し、将来的な生産終了も示唆する。対するマツダは、「当面、内燃機関が混在する期間は続く」(廣瀬氏)との見立てを大前提に据える。そして、「内燃機関をゴールと言えるところまで進化させておくことは依然として重要だ」(同氏)と言い切る。
マツダの姿勢は、過去のこだわりを捨てきれず時代に逆行しているようにも映る。だが、CX-60から導入が始まったラージPFの技術要素や開発体制、今後の研究方針などをひもとくと、「業界のスモールプレーヤー」を自認するマツダの、意外と冷静な戦略が浮かび上がってきた。
マツダの戦略は、「なぜ直6エンジンやラージPFを開発する必要があったのか」という点を整理すると理解できる。理由は大きく3つありそうだ。(1)最重要市場の北米で売れる中大型SUVを用意する、(2)欧州の環境規制に対応する、(3)2030年以降を戦うための原資を確保する――である。