マツダの命運を左右する新プラットフォーム(PF)「ラージ」(以下、ラージPF)がついに量産に入った。一息つく暇もなく、現在は電気自動車(EV)専用PFの開発を急ぐ。「業界のスモールプレーヤー」を自認するマツダ。開発費や人員などに制約がある中でどう対応しているのか。PF開発を担当する同社執行役員の松本浩幸氏に話を聞いた。
前世代のPFと比べて開発費を25%低減したのは大きなインパクトだ。
車種を増やしながらも開発費を25%低減している。前回は、3車種を一括で開発した。今回は中型SUV(多目的スポーツ車)「CX-60」から量産が始まる「ラージ商品群」の4車種。車種数は1.25倍で、しかもパワートレーンのバリエーションも多い。プラグインハイブリッド車(PHEV)を新たに追加した。48Vのマイルドハイブリッド車(簡易HEV)もある。(車種やパワートレーンの違いで分けた)1モデル当たりの効率化で考えれば、劇的に開発を効率化できた。
開発費を低減できた理由を知りたい。試作車の数はどれくらい減らせたのか。
試作車の数は公表できないが、開発費は試作車の数にほぼ比例すると思ってもらっていい。その数が4分の3になったということだ。
試作車の数を減らせた要因として大きいのは、全ての領域でモデルベース開発(MBD:Model Based Development)を浸透させたことだ。試作車で検証しなくても開発を進められた。最終の性能検証、あるいは(衝突安全性や燃費・排ガスなど)各種規制への適合を確認する段階だけ試作車を使うようにできた。
(4車種を同時に開発するため)多くのエンジンとボディーの組み合わせがあるが、MBDでおおよその確認ができ、性能検証もできる。性能検証する試作車は、厳しい条件のモデルに絞るようにした。衝突性能だけでなく、振動と騒音などのNVH(Noise、Vibration、Harshness)やエンジンの開発など、全ての領域で絞り込んだうえで最後の試作車での検証を実施した。
衝突安全性に関する規制では、実車を使った試験を全モデルで実施するという手順は省けない。ただし、そこに至るまでの試作車がほとんどいらなくなったというわけだ。
PHEVは開発が1年遅れた。搭載する電池容量の増加に伴う配置変更などが原因と聞いている。
MBDを活用することで、遅れを1年にとどめられたと捉えている。電池をどこに載せるかでボディーの設計は大きく変わる。当初、(後輪側の)荷室下に電池を配置することを前提に、クルマの中央付近(キャビン)のアンダーボディーは骨格を真っすぐに通していた。
だが、やはり電池は車体の中心の床下に置くべきだとなった。より大容量の電池を搭載できるようになるからだ。重量物を車両中心に置けるので慣性質量は小さくなり、4輪の力を遅れなく曲がる運動に変換できるようになるという利点もある。
床下に電池を配置する場合、アンダーボディーの骨格を車幅いっぱいまで広げる必要がある。
従来であれば、電池の搭載位置が変われば設計はイチからやり直しだ。今回は、MBDによって、電池を床下に搭載した場合に最適となる骨格の通し方をモデル上で全部設計できた。机上で最適解を見いだした。そのための時間として、約1年間をいただいたということだ。試作車を作って検証する時間ではない。