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 「えっ、日経BPの記者は理系出身なんですか」。これまで20年ほど記者活動を続けてきて、この質問を何度受けただろうか。技術系の媒体には、理系出身者が多い旨を伝えると、大抵こう続く。「びっくりしました。記者の仕事は文系の仕事だと思っていたので」

 日経BPで発行する「日経コンピュータ」「日経エレクトロニクス」「日経アーキテクチュア」といった専門雑誌や、「日経クロステック」という技術系デジタルメディアを支える記者の多くは、理系出身者が占める。

 情報工学や機械工学といった専門技術を扱うので、その分野への一定の理解や、継続学習をあまり苦にしない方が仕事を進めやすいからだ。誤解を招かないよう付け加えておくが、文系出身者にも優秀な記者は多い。関連する技術を勉強し、理系的な論理性を発揮できれば、大学での専攻と異なっても問題はないのだ。

 他方、学生や若い世代からは、こんな言葉を聞く機会も多い。「理系なので文章が苦手です」「国語が苦手だったから理系にしました」──。同じような思いを抱いているベテランエンジニアも珍しくないだろう。

 断言する。これは一種の“呪い”だと。分かりやすい文章を書くうえで最も大切なのは、決して文学的センスや名文を書く力ではない。地道な素材集めと論理的な構成力こそ重要なのだ。

 地道な素材集めや物事を論理的に思考する行為は、数学や理科に通じる。理科系に進んだ人であれば、どちらかといえば得意としてきた科目だろう。図形の証明問題や帰納法を駆使する数列の問題などの解答には、表現こそ数式や記号が多いものの、作法は文章の構築とさほど変わらない。

 本コラムでは、国語や文章作成が得意ではなかった理系編集長の浅野祐一が、諸先輩からの指導や、書籍・雑誌・デジタルメディアでの長年にわたる編集経験に基づいて、文章の書き方をまとめてみる。「理系だから文章は苦手」と思っていた人が、「理系的な感覚を生かせば自分にも書ける」と、考えを改めてもらえるようにしたい。ここまで理系を前面に打ち出して説明してきたが、文系理系を問わず「文章の執筆はちょっと苦手」と悩んでいる人に役立つ情報を届けたいと思う。

 本コラムには小難しい文法などの解説や理論はあまり持ち込まないつもりだ。そもそも、私はそのような解説をする力量を持ち合わせていない。あくまでも筆者の経験をベースに、分かりやすい文章を書くための流儀を伝えたい。連載で紹介する方法よりも優れた解決策や選択肢が存在する場合もあると思う。あくまでも「浅野流」の文章術だという点は最初に断っておく。