文章を書く際の素材集めで忘れてはならないのは、同じ内容や意見、方向性が近い素材ばかりを集めないという点だ。いわゆる“仲間内”の素材だけで満足してはいけない。これは、科学技術の紹介でも、ビジネスの説明でも共通する。

例えば、技術や商品を紹介する際に、それらをポジティブに捉えた素材だけでなく、課題や問題点などネガティブな素材も集める。考え方を示すような場合であれば、異なる考え方も素材として用意しておく。今や重要な概念となっている“多様性”を取り入れるといえば、分かりやすいかもしれない。
科学技術の説明で長所ばかりを説明されると、情報が誇張されているのではないかと疑う人が出てくる。考え方を示すような場合では、多様な考え方がある実情を踏まえたうえで、主題に沿った考え方に至ったと説明した方が、文章の深みが増し、読み手の納得感は高まる。
まずは、バクテリアを用いて血液や汗の異常を調べられる技術を開発したという題材を例に挙げて見ていこう。
<主題>
- Z機構は、バクテリアを用いて溶液を識別できる技術を開発した
<主題の説明>
- バクテリアの走化性を利用して、物質とその濃度を推定する
- バクテリアは周囲にある物質を好む場合と好まない場合でべん毛の回し方を変え、近づいたり遠ざかったりする
- この動きの特徴は溶液や濃度に応じて異なる
- 特徴をデータベース化し、バクテリアの動きで溶液の成分や濃度を特定できるようにする
<期待される効果>
- 人が美味と感じる物質とバクテリアの反応をひも付けると、おいしい飲料などの開発に役立つ
- 血液や汗の分析に活用して、人の健康状態などを把握する技術に応用できる可能性がある
- 大量のバクテリアを使って分析するので、バクテリアの個体差によって生じる推定誤差の影響を抑えられる
<背景>
- 同様の技術は既に存在したものの、物質が事前に分かっている場合に使えるといった限定的な利用にとどまっていた
ここまでの材料で、技術の原理や期待される効果は見えてくる。ただ、その技術の信頼性までは分からない。ここで、以下のように百発百中の技術ではないということを明確にした情報が加わると、記載内容に対する誤解は小さくなる。
<課題>
- まだ、溶液によって判定精度にばらつきがある
- 異なる飲み物の判定は9割以上の精度で判別できるが、同種の飲み物の違いの判別精度は8割を切る
プロの編集現場では、課題や多様な視点、対立する意見などを文章中に盛り込むことを大切にしている。それは、記事自体の品質向上に大きなメリットがあるからだ。では一体、どんなメリットがあるというのか。