ここまでの連載では、分かりやすい文章を作成する際には、主題を先に明示して伝えたい要素から順に記述するのが基本だと説明してきた。情報を分かりやすく伝えるには、あくまでもこの方法が基本だが、読み物としての魅力を高めるために、あえて異なる構成を用いる場合もある。今回は、そうした変化を持たせた組み立てを解説する。
結論とは逆の素材を最初に持ち出して話を展開する構成は、代表的な手法の一つだ。この際、「起承転結」を応用した構成を用いると執筆しやすくなる。詳しくは後述するが、「起承転結」は本来、分かりやすい文章を書くうえでは扱いの難しい“禁じ手”のような構成だと筆者は考えている。

起承転結を簡単におさらいすると、次のような流れになる。「起」でこれから伝える話の前置きを記し、これを受けて「承」で話を広げる。続く「転」で視点を変えるなどして話を展開。「結」で締めくくる。論理的な文章を構築する際に、「転」はあまり好ましい存在ではない。ただ、結論とは逆の内容から始まるような構成の場合、本来の結論に導くために「転」が重要になってくる。
次の例文を見てほしい。
<例文1>
「電源構成における再生可能エネルギーの比率が低い日本では、電気自動車(EV)が増えても二酸化炭素(CO2)の削減にはつながらない」──。自動車業界からよく聞く主張だ。
日本の電源構成における再生可能エネルギーの比率は、EVの販売が堅調に伸びる欧州連合(EU)の各国に比べて低い。資源エネルギー庁によると、2020年度の日本の発電電力量のうち、再生可能エネルギーは2割弱。化石燃料による火力発電は4分の3に達する。現状の日本の電源構成を考慮すると、EVの充電には発電時にCO2を排出した電力が使われている可能性が高い。
だが、冒頭の主張を覆すような取り組みもある。▼▼市は市内の消費電力の6割ほどを再生可能エネルギーで賄う。森林資源が豊富な同市では、木材を活用したバイオマス発電を推進。同市の消費電力の約2割を、市内に新設したバイオマス発電所で生み出す。
同市内の製材所で出た端材や山で切り捨てられて放置された木材などを市が買い取り、バイオマス発電の燃料として活用できるようにした。この燃料は、他の市町村にも販売している。
さらに市は、新たなバイオマス発電所の建設計画を進めており、市内の電力需要の100%を地産の再生可能エネルギーで賄う目標を掲げる。
このような自治体でガソリン車からEVへのシフトが進めば、地域のCO2排出量は着実に減らせるはずだ。
ここで、例文1において表現されている話題をパラグラフごとに分解して、起承転結の役割を確認していこう。