国語の文法のうち、小学生の低学年の頃から繰り返し教わるのが主語と述語の関係だ。主語と述語を正しく対応させることは、文を書く際の基本中の基本である。
ところが、日本語では主語を省略した表現がとても多い。そのため、実際に文章を書くと主語と述語の対応が不明瞭で分かりにくい文章になったり、主語と述語の対応が不正確で誤った説明の文章になったりする事態が頻繁に起こる。

文書のプロである記者が書いた原稿でも、最初の段階ではこうしたミスが時々発生する。述語となる部分を書く際には、主語との対応が適切かを丁寧に確認しなければいけない。ここからはいつもの連載ように例文を通じて解説する。
<例文1>
電力市場が高騰し、2022年初頭から契約更新時の見積もりを辞退し始めた。新電力は既存顧客へのサービスすら維持できないので、相次いで新規契約の受け付けを止められた。時期を同じくして大手電力も新規受付を止めた。
その結果、電力の契約先を見つけられない企業、いわゆる「電力難民」が急増。選択肢は最終保障供給しかなくなった。
例文1には主語の省略された文がいくつも含まれている。最初の文では「電力市場が高騰し」までの部分の主語は「電力市場が」になるものの、これに続く「2022年初頭から~辞退し始めた」の主語が省略されている。これでは、意味が分からない。後半には「辞退し始めた」に掛かる主語として、「新電力が」という一言を追加する必要がある。
続く、「新電力は~維持できないので」には、「新電力は」という主語が入っているが、その後の「相次いで新規契約の受け付けを止められた」の部分では主語が省略されている。
このままだと「受け付けを止められた」主体も新電力と読めてしまう。だが、実際は違う。この文の後半に入るべき主語は「新たな顧客は」だ。主語が不適切に省かれた文章なので、おかしな内容になっている。
一文に複数の述語が入っている場合には、それぞれの主語が分かるようになっているかを十分に確認しなければならない。例えば、「A社の作業員は操作を誤り、重傷を負った」という文。重傷を負ったのがA社の作業員であればこのままでよいが、もし別の人物であれば、その別の人物を後半の主語として明記しなければ、情報は正しく伝わらない。主述の不一致による文章の誤りは、記事という商品にとっては致命的。即座に大事故になってしまう。
例文1に戻ると、その後に続くパラグラフ内の「時期を同じくして大手電力も~停止した」「その結果~いわゆる『電力難民』が急増」「選択肢は~しかなくなった」には、それぞれ主語が明記されている。ここは正しく読み取れる。