SUBARU(以下、スバル)は富士通などと共同で、カムシャフト研削加工における全ワークの品質をリアルタイムで予測し、良否を判定する人工知能(AI)モデルを開発した。2019年12月からの実証試験を経て、22年1月末からスバル群馬製作所大泉工場(群馬県大泉町)の量産ラインで本格稼働を開始している(図1)。
AIモデルの導入で、同社のカムシャフト加工工程における品質保証のプロセスが変わった(図2)。従来は加工後の検査工程で、全数に対して検査員による目視検査を、抜き取りで測定による検査を実施していた。目視検査では傷や工具のびびりに伴う表面の荒れなど、肉眼で確認できるような明らかな不良品を排除する。抜き取り検査では径寸法、位相角、真直度、表面粗さなどの品質項目を測定していた。
AIモデル導入後は、加工中に全数の品質を予測して保証する。導入直後はAIモデルによる予測と併せて従来の目視検査と抜き取り検査も実施するが、「半年間ほどAIの実力を確認して、目視検査は廃止する」(同社)方針だ。抜き取り検査は今後も実施するものの、従来のように品質を直接確認するためではなく、測定した値をAIの予測値と比較してAIモデル精度を評価するための「校正」へと目的を変えていく。
カム研削工程が抱えていた課題
AIモデルによる品質予測の対象となったカムシャフトは、断面が卵形の部品(カム)を複数取り付けた軸である(図3)。軸の中心からカムの外周までの距離が一定でないことを利用して、カムシャフトの回転運動をカム表面と接する部品の往復運動に変換する。エンジン用カムシャフトは吸気・排気バルブを開閉する役割がある。「カムの寸法精度が燃費性能や排ガス性能に影響を及ぼし、表面性状が悪いと異音発生の原因となる場合がある」(同社製造本部群馬製作所電動車両生産技術部DX主査兼生産技術統括部DX企画主査の大庭卓氏)。
スバルのカムシャフトは、金属パイプに焼結でカムを形成し、パイプ両端をとじる部材を摩擦圧着して造る。その後、カム表面の研削加工などを経て完成させ、前述のように全数目視検査と抜き取り検査が実施される。
カムに求められる精度は、表面粗さを示すRa(算術平均粗さ)はコンマ台(1μm未満程度)、真直度は数μmなど、肉眼での不良判断が難しい。そのため、抜き取り検査で補足しきれず後工程に流れてしまうなど、自工程の保証度*1で課題を抱えていた。「エンジンを組み立てた後に異音が発生してようやく不良に気づくこともあった」(大庭氏)。こうなると、ばらし作業や全部品の検査作業など多大な工数がかかる。とはいえ、カムシャフトの全数を測定して確認するのは、生産性を低下させるので採用しづらい。