3次元(3D)プリンターを使ったリチウム(Li)イオン2次電池(LIB)の量産は既に始まっている。最大のメリットは、材料系を大きく変えなくても、体積エネルギー密度を最大で既存LIBの1.7倍に高められる点だ。全固体電池とは特に相性が良い。
印刷を縦方向に積み重ねることで、さまざまな形状のモノを造り出せる3次元(3D)プリンター。これを使っていよいよ、蓄電池、それも全固体電池を造る時代になってきた。
最初の試みは2013年。米Harvard Universityなどがインク状にした正極や負極の材料を使って、印刷技術で立体的なリン酸鉄リチウム(LFP)系リチウム(Li)イオン2次電池(LIB)を作製したことに、電池関係の研究者は衝撃を受けた(図1)。これをきっかけに、米国の各大学、スイスや英国、中国、日本などで3Dプリンターを使ったLIBなど蓄電池の製造技術の開発が盛んになった。
全固体電池の有力な製造方法に
LIBなどの蓄電池を3Dプリンターで製造するメリットは幾つもある。具体的には、(1)正負極や電解質など素子構造の設計自由度の高さ、(2)素子構成の多層化によるエネルギー密度の20~70%向上、(3)電極の3D化で1セルの容量と放電レートの向上、(4)大規模量産、多品種少量生産(オンデマンド生産)の両方に対応可能、(5)製造コストの低さ、などである。
このうち、(1)と(2)は、いわゆる全固体電池の特徴でもある。ここにきて、3Dプリンターによる電池製造に脚光が当たっているのも、全固体電池との相性が抜群に良いからだ。
2021年末から量産始まる
現在、その開発の最前線は既に、製品の量産段階に達している(図2)。口火を切ったのはスイスの資源大手Blackstone Resourcesとその子会社のドイツBlackstone Technologyだ。Blackstoneグループは2021年12月に、3Dプリンターの技術を一部に使って年産50MWhの規模で容量が50AhのLFP系LIBの量産を始めた。体積エネルギー密度は220Wh/L。既存のLFP系LIB製品は160~200Wh/Lであるため、かなり高いといえる。
また、重量エネルギー密度についても既存のLIB製品より約20%高いとする。2022年中には量産規模を同500MWhに拡大予定で、近い将来には同10GWhの水準にするという。
このLFP系LIBのセルは全固体電池ではないようだが、同グループは全固体のナトリウム(Na)イオン2次電池(NIB)も開発中だ(図2(c))。全固体の場合は、上記の(2)の効果が高まり、液体電解質のセルよりも体積エネルギー密度が70%も高くできる可能性があるとする。同グループはこの全固体NIBを2025年に量産する計画だ。