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中国で大ヒットを記録している50万円の電気自動車(EV)、「宏光MINI EV」(上汽通用五菱汽車)。名古屋大学は、同車の三相インバーターを分解・調査した。判明したのは、部品の統合化やメリハリ設計によって、極限までコストをそぎ落とす見事な設計力だった。日本人エンジニアが開発をサポートしたとみられる。内部設計や部品を詳細にレポートする。

 中国・上汽通用五菱汽車が2020年7月に約50万円で販売開始し、ベストセラーとなっている4人乗り電気自動車(EV)の「宏光MINI EV」(図1)。販売価格もさることながら、搭載されているモーター駆動用の三相インバーターも、名古屋大学の分析によれば原価が1万6000円と非常に安い。これだけ低価格だと、いい加減な部品を使っていたり、構造が粗悪だったりと、いわゆる「安かろう悪かろう」ではないかと想像してしまう。しかし蓋を開けてみると、この予想は裏切られ、入念に考え込まれたインバーターの設計思想が明らかになった。

図1 EVでは破格の50万円以下で販売
図1 EVでは破格の50万円以下で販売
宏光MINI EVの外観。中国・上汽通用五菱汽車のEVで、下位グレードの価格が50万円を切る。2020年に米Teslaのセダン型EV「モデル3」の販売台数を上回ったことでも注目を集めた。(写真:日経クロステックがTECHNO‐FRONTIER 2021で撮影)
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 この三相インバーターで目を引いた点は大きく2つある(図2)。コスト抑制のための独創的な設計と、基幹部品に限り信頼性の高い部品を採用して他の部品は安価な民生品を使用するメリハリ設計だ。つまり、ただやみくもにコストを削減したのではなく、構造や部品に細やかに気を配って、信頼性の確保と低コスト化の両立を突き詰めていた。

図2 低コスト化へ数々の工夫を凝らした
図2 低コスト化へ数々の工夫を凝らした
分解して判明した宏光MINI EVの三相インバーターの設計思想。構造設計や部品選定の細かい点まで気を配り、コスト低減を突き詰めていた。(図:山本真義)
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 こういった高度な製品化を達成した陰には、日本人エンジニアの支えもあるようだ。インバーター内の基板上に「検」の文字が見つかった(図3)。基板の量産工程におけるこうした押印の風習は、日本国内でのみ浸透している。加えて、詳細は述べないが回路構成などにも日本のメーカーの癖があった。つまり、かつて日本で車載インバーターの設計に携わっていたエンジニアが中国へ渡り、このインバーターの量産工程をサポートしているという推測が成り立つ。

図3 日本人エンジニアが開発をサポート
図3 日本人エンジニアが開発をサポート
インバーター内の基板で発見された「検」のマーク。基板量産時のこうした押印は日本独特の風習である。日本人のエンジニアが中国に渡り、開発をサポートしているのは確実だ。(写真:山本真義)
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 それでは具体的に、宏光MINI EVのインバーターにはどんなオリジナリティーがあるのか見ていこう。