全2271文字
PR

 企業経営を考えるうえで需要予測は欠かせない。従来の需要予測は主として類似条件における実績データから導き出した数値を活用したり、現場の経験や勘に頼ったりするケースが少なくなかった。そうした従来手法では、正確な予測がますます難しくなっている。新型コロナ禍のような過去の経験則が通用しないビジネス環境の変化が起きているのに加え、現場の経験や勘でカバーしようにも経験豊富な人材は慢性的に不足しているからだ。

 一方で、SNS(交流サイト)や気象データなど情報システムで扱えるデータは急増している。AI(人工知能)であれば、多様なデータを需要予測の精度向上につなげられる可能性がある。そのためAIによる需要予測に乗り出す企業が増えている。先行事例を基に、AIによる需要予測の課題や効果を探る。

 「企業を成長させてグローバル化を進めるために、在庫コントロールの定型化は欠かせなかった」――。このように話すのは眼鏡小売りのジンズ(JINS)で情報システムを統括する櫻井勇太郎 EW事業本部 商品戦略部 MD課商品計画G グループリーダーだ。国内で約450店舗を展開するジンズは、2022年2月に約1年間のPoC(概念実証)を経て、新しい需要予測システムを稼働させた。社内では「PSI Cockpit」と呼んでいる。PSIは生産(Production)、販売(Sales)、在庫(Inventory)の意味だ。

 新しい需要予測システムはアクセンチュアのパッケージ製品を利用する。AIがシナリオを複数用意し、そこに担当者の意思を入力して予測する。全てをAIに任せるのではなく、担当者の意思を反映させられるのがポイントだ。新型コロナ禍の影響など過去の実績データがない場合も担当者の知見や経験則で補える。

 PSI Cockpitには、未来欠品アラートと在庫過剰アラートという2つのアラートシステムを搭載した。前者は未来に欠品が発生しそうになったら注意喚起をするもので、後者は在庫過剰のリスクが生じそうな際にアラートを出す。このシステムにより「PoCでは欠品による売り逃しを約65%削減(粗利ベース、2019年比)し、廃棄ロスを約10%削減(除却・評価損を含む、2019年比)できた」(櫻井グループリーダー)。最新のデータはまだ集計していないが、徐々に売り逃しや廃棄ロスは減っているという。

JINSが開発したPSI Cockpitの画面
JINSが開発したPSI Cockpitの画面
(出所:JINS)
[画像のクリックで拡大表示]

欠品から発注では半年かかる

 「眼鏡のフレームはリードタイムが長い商品では半年かかるものもある」(櫻井グループリーダー)。補充に時間がかかる一方、売れ残った余剰在庫は廃棄することもある。眼鏡のフレームは長期間保管できるとはいえ、あまりに長期にわたると商品がわずかに劣化するためだ。

 欠品と余剰在庫を減らしたい――。こうした課題を解決するため、JINSは2018年に需要予測の専門組織「在庫発注チーム」を立ち上げた。売り上げが伸びたことからもチーム創設の効果があったという。

 しかし櫻井グループリーダーは「課題感が残ったままだった」と振り返る。需要予測は専門組織の経験則に頼るところが多く、属人化からの脱却が課題となった。また約1200品目を専門組織だけで正確に予測するのは難しかった。従来は専門組織の担当者が、店舗ごとの過去の売り上げや類似商品の販売実績などのデータを探し、その都度予測しなければならなかった。予測には、毎月延べ約90時間かかっていたという。