全1645文字
PR

 企業経営を考えるうえで需要予測は欠かせない。従来の需要予測は主として類似条件における実績データから導き出した数値を活用したり、現場の経験や勘に頼ったりするケースが少なくなかった。そうした従来手法では、正確な予測がますます難しくなっている。新型コロナ禍のような過去の経験則が通用しないビジネス環境の変化が起きているのに加え、現場の経験や勘でカバーしようにも経験豊富な人材は慢性的に不足しているからだ。

 一方で、SNS(交流サイト)や気象データなど情報システムで扱えるデータは急増している。AI(人工知能)であれば、多様なデータを需要予測の精度向上につなげられる可能性がある。そのためAIによる需要予測に乗り出す企業が増えている。先行事例を基に、AIによる需要予測の課題や効果を探る。

 長崎ちゃんぽんリンガーハットやとんかつ濵かつなどのチェーン店を全国で約700店舗展開するリンガーハットは2022年4月現在、新しいAIを駆使した売り上げ予測(需要予測)システムのテストを実施している。数店舗でテストした後、2022年秋に全店舗に本格導入する予定だ。

 実はリンガーハットは2018年末から初代の売り上げ予測AIを稼働させている。初代のAIのアルゴリズムは、米Microsoft(マイクロソフト)の勾配ブースティングに基づく機械学習フレームワークである「LightGBM」を用いた。

 初代の導入前は前年同日の売り上げを基に予測していた。初代の導入によって、基本的に前月から遡って過去3年分の売り上げデータを基に、半年先までの全社および各店舗の売り上げを予測するようになった。予測した売り上げのデータは月次で各店舗に送り、各店舗は予測データを基に店長が中心となって補正し、食材などを発注する。

初代の売り上げ予測システムのイメージ
初代の売り上げ予測システムのイメージ
(出所:リンガーハット)
[画像のクリックで拡大表示]

 売り上げ予測を基に食材などの発注量を決めるのは、リンガーハットでは売り上げ予測が販売予測と同等の意味を持つからだ。リンガーハットの是末英一DX推進チーム部長は「売り上げによって必要な食材や人員などが決まる」と説明する。リンガーハットのメニューは共通の食材を使うものが多く、売り上げに対する食材量や必要人員数の振れが小さい。つまり売り上げ予測が正確なら、適切な食材量と人員数で店舗運営が可能になるわけだ。

急激な変化に対応できない

 初代の売り上げ予測AIは予測値と実績値の誤差がプラスマイナス10ポイント程度の精度を実現していたが、社内からは精度向上を求める声があったという。さらに、2020年から「急激な売り上げ変動に対応しきれないケースが発生するようになった」(是末部長)。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で営業時間を短縮せざるを得ない店舗が発生したり、急激な人流の変化に見舞われたりしたためだ。

 売り上げ予測は各店舗の店長が補正するが、ベースとなるAIの予測が大きく外れるとそれだけ補正は難しくなる。補正がうまくいかないと、販売機会の損失や食材のロスにつながる。そこで急激な売り上げの変化に対応するため、2代目の売り上げ予測AIを開発することにした。