新型コロナウイルス禍で感じている最も深刻な課題は何か――。日本を代表する企業のデジタル変革リーダーが集う「ITイノベーターズ会議」(2022年3月16日、日経BP総合研究所イノベーションICTラボが開催)で、エグゼクティブメンバー(幹事会員)らにこの質問を投げかけたところ、従業員満足や創造性がテレワークによって奪われたとする悩みが明かされた。その後のディスカッションでは、それらを取り戻すための方策について白熱した議論が繰り広げられた。
「従業員の満足度」について強い危機感をあらわにしたのは、楽天グループの平井康文副社長執行役員CIO&CISOである。同社は多くの外国人エンジニアを抱えている。そうしたエンジニアは「初めて来日してワンルームなどの狭い部屋に住み、長い時間、自宅のベッドの前にパソコンを置いて仕事をしている。会社に来ていろいろと会話していた以前のように仕事をしたいと思っているが、在宅での仕事が続く。それが理由で会社を去っていく人も出始めている」と明かす。さらに平井氏は、自社の状況を踏まえ「もはや満足度というより、従業員のエンゲージメントの問題と捉えている」と話した。
同様の危機感を持ち、「一番大きな問題だと感じているのは、ロイヤルティーの低下だ」と発言したのは、積水化学工業の原和哉デジタル変革推進部情報システムグループ長である。「ビジネス街の中心地などにあるすてきな社屋に出勤したとき『立派な会社に勤めている』と実感し、それが仕事のモチベーションにつながることもある。しかし、自宅にいながらほとんどの仕事ができるようになると、どこの会社に所属しているかは、次第にどうでもよくなってくる」と、原氏は発言の意図を説明する。
さらに原氏は、いずれ在宅勤務が当たり前になれば、「所属企業ではなく仕事の中身にしか興味が湧かなくなる」とし、次のように続けた。「どうしてこの会社で働いているのかと疑問を抱く人が、将来を担っていく若い世代に増えてくるのではないか。そうした人たちに、いかにして会社にとどまってもらうのか、これから大きな問題になると考えている」。