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 在庫の是非を考える上で、まず、在庫は「なぜ必要なのか」を考えてみたい。そこで、「在庫ゼロ」の理想的な工場(以下、理想工場)のプロセスを想像してみよう。

「在庫ゼロ」の理想工場を想像してみる

 理想工場では、顧客の需要が正確に予測できているので、それを基に工場の生産計画が時間的な余裕を持って組み立てられている。生産計画に従って原材料や資材が発注され、生産に必要なタイミングで必要な原材料や資材が、必要な量だけ調達される。調達した原材料や資材は、適切な受け入れ手続きを経て、すぐに生産工程に供給される。原材料や資材が適切に供給された生産工程では、第1工程から最終工程まで工程間で停滞することなく、それぞれの工程がトラブルなく速やかに実行される。最終工程を終えた完成品は、すぐに出荷梱包され、タイミングよく待っているトラックに載せられて、流れるように顧客に向けて出荷される──。

 こうした理想的な状態であれば、事実上、在庫ゼロの生産オペレーションを実行することができる(厳密には工程内で加工中のものは存在している)。

(作成:筆者)
(作成:筆者)
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 理想工場の姿は、経営的に見ると、最も効率良く生産し(損益計算書における利益の最大化が行われ)、最も資金を有効に活用すること(貸借対照表、キャッシュフローの最適化)を意味しており、工場マネジャーとして目指すべき姿であることは論をまたない。

 しかし、残念ながら、この理想工場の実現は現実の工場に存在するさまざまな課題によって、それを阻まれている。それらの課題には、自社の努力で改善できるものもあれば、自社だけではどうにもならないものもある。そのため、「理想工場を目指した改善の取り組みを実施すべきだ」などと言うと、机上の空論だと笑う人もいる。

 だが、理想工場を工場のあるべき姿と考えたとき、読者の工場の現状はどうだろうか。大なり小なりかけ離れた状態にあるのではないだろうか。あるべき姿と現状とのギャップは、改善すべき課題と位置付けられる。もしも理想工場の例え話を笑う工場マネジャーがいるのであれば、工場の現実を是認するだけで改善の意志がない人物だと評されても仕方がない。