これまでの常識をアップデートする
工場マネジャーは、常に経営視点で「在庫を持つ目的」を意識しておくべきだ。在庫に関わる常識を2つ紹介したが、これらは「在庫を持つ必要性」を示すものにすぎないことに着目してほしい。
「在庫がなければ商売にならない」とは、販売するために製品在庫が必要だということだ。だが、この場合の在庫を持つ目的とは、販売することで売り上げや利益を獲得することであるはずだ。在庫を持つこと自体は目的達成の手段にすぎない。
「在庫がなければ生産ができない」というのも同様だ。販売計画に連動しているか否かは別として、生産計画を遂行するためには材料在庫や仕掛かり在庫が必要だということだ。しかし、この場合の在庫を持つ目的も、販売することで売り上げや利益を獲得することであるはずだ。
また、生産活動においては、経営視点での在庫を持つ目的として、最適な原価で生産することも考えられる。やはり、在庫を持つことは目的達成の手段にすぎない。
本コラムの冒頭で「付加価値」という言葉を使った。経営においては、「売り上げた金額と外部から購入したインプットへの支払金額との差額が付加価値と呼ばれるものである。~(中略)~企業の存在意義を測る基本的指標である」〔加護野・伊丹著『ゼミナール経営学入門』(日本経済新聞)〕と定義される。
企業は、ステークホルダー(利害関係者)から存在意義を高めることを求められており、そのために付加価値を高めなくてはならない。付加価値を高めるためには、売り上げを増やし、そして利益を増やす(売価を高くするか、原価を低減するか)ことが必要となる。経営視点で在庫を持つ目的も、これにつながることが重要だと考えてほしい。
荒っぽくいえば、付加価値を高めることに貢献できた在庫は評価に値するし、付加価値を高めることに貢献できなかった在庫は批判に値すると考えればよい。工場マネジャーは、在庫を持つ必要性に妥当な理由があっても、後の結果で、付加価値を高めることに貢献できなかった在庫は、在庫を持つ目的を果たせなかったと考えるべきである。そして、在庫を持つべきだと判断した時点での「必要性」が、どれくらい妥当なものだったのかを冷静に振り返ってほしい。
ここで工場マネジャーに提言がある。「在庫に対する認識をアップデートせよ」ということだ。本コラムで繰り返し述べたように、「必要性」に迫られて在庫を持つという業務プロセスは否定しない。だが、その結果を必ず把握し、「在庫を持つ目的」に適(かな)ったか否かで、在庫を持つと判断した経緯を厳しく評価すべきだということである。ここで目的に適わなかった在庫が発生した場合は、最初に考えた必要性が不適切であったと判断し、その原因を追究するのだ。
例えば、「販売できると考えて見込み生産をしたのに、現実には受注が予測を下回り、売れ残ってしまった在庫」があるとする。その場合は、なぜそうした見込み違いが発生したのかという理由を明確にし、今後の需要予測活動にどう反映させるかを考える。
「顧客の調達部長が2割程度の増産をほのめかしていたので、それを受けて生産部門に増産指示をかけた」という見込みの背景に対し、後に関係者に探りを入れてみると、顧客の技術部長から「あれは調達部門の先走りだ」などということを聞くことがある。そうすると、「増産の可能性があると言われた場合、顧客の技術部と製造部にも裏取り(情報収集)をする」といった対策へとつなげていくことができる。他にも、「使うと見込んで原材料を調達したのに、生産に使われないまま材料倉庫で眠っている在庫」がなぜ発生したのかを考える場合にも同様のことがいえる。
ジェムコ日本経営本部長コンサルタント、経営学修士(MBA)大阪産業大学 経営学部商学科 非常勤講師
