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 本コラムは、工場マネジャーが経営的な視座から在庫について考えるためのものだ。まず、工場マネジャーとして在庫を議論するときには、在庫は何のために持つ必要があるのかという経営の視点で、「在庫を持つ目的」を明確にして考えてほしい。

付加価値の増加に貢献したか否かを考える

 目的志向の在庫論を説くことには理由がある。実務者が在庫を議論する場合、どうしても目の前にある「在庫を持つ必要性」が前面に出てしまうものだ。例えば、「顧客からの即納要求に対応するために製品在庫を持つ」という事例を考えてみよう。この場合、経営視点での在庫を持つ目的は、即納対応をすることで受注を獲得すること、そして売り上げと利益を増加させることだ。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 営業担当者は、顧客の要求に対応できずに失注することは是が非でも避けたい。そこで、顧客から即納要求がありそうな製品は、ある程度の製品在庫を持っておくべきだと主張したい。企業の判断も、売り上げ目標を達成するために、顧客からの即納要求に対応できる製品在庫の保有を許容する。その結果、営業担当者の予測通りに受注が実現し、売り上げと利益に貢献できれば、製品在庫の保有は適切だったと評価される。製品在庫が販売につながり、売り上げと利益が増加するのであれば、それは企業の生み出す付加価値を増やしたということになる。

 ところが、営業担当者の予測が外れて、製品在庫の一部もしくは全部が受注につながらなければ、それらは全て企業にとって費用の増加となり、利益を減らしてしまうことになる。これはすなわち、企業の生み出す付加価値を減らすことにほかならない。

 そもそも、受注予測は常に不確実性を伴うものだ。市場や顧客の動向など、さまざまな情報を総合して営業担当者が深く考えても、一定の割合で予測と現実との間にはズレが生じる。予測と現実のズレが発生すると、この事例では、売れずに残った製品在庫が発生することになる。

 「ものがなければ商売にならない」という力強い言葉は、在庫を持つ必要性を訴えるのに十分な威力を持っており、筆者もこれを否定するつもりは全くない。しかし、この事例のように、在庫を持つ必要性(即納対応を実現したいという考え)は分かるが、その結果を見ると、経営視点で在庫を持つ目的、すなわち売り上げと利益の増加には貢献しない場合もあり得るのである。