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 この「シン・在庫論」は、工場マネジャーが経営的な視座から在庫について考えるためのコラムだ。前回は「在庫を持つ目的」を経営の視点から考えるべきだと解説した。在庫を持つ1つの目的は、売り上げや利益の増加など企業の付加価値を高めることにある。工場マネジャーは、在庫の保有が目的にかなっているかどうかを常に管理すべきだ。

 そして、在庫を持つもう1つの目的は、リスクの低減にある。製品在庫を持たなければ、顧客の注文に即応できない。材料在庫を持たなければ、急な生産計画の変更に対応ができない。そうしたリスクを回避(低減)するために在庫を持つ必要があるという考え方である。

「リスク対応在庫」を安易に考えてはいけない

 この「リスク」という言葉は、漠然としたイメージで使われることが多い。「リスク対応のために、ある程度の在庫が必要」などと、なんとなく在庫を持つ正当性の言い訳にされている。

(作成:筆者)
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 「リスク」とは危険を意味し、望ましくない結果を発生させる可能性という意味で使われることが多い。そして、このリスクは「純粋リスク」と「投機的リスク」の2つに分類する方法が一般的とされている。純粋リスクとは、損失のみを発生させるリスクであり、自然災害や事故などが発生する可能性のことだ。一方、投機的リスクは「ビジネスリスク」とも呼ばれ、損失だけではなく利益を生む可能性もあるリスクで、為替や金利の変動、新製品の開発など事業の環境が変化する可能性のことである。

 在庫の文脈で考えてみよう。純粋リスクは、その性質上、発生の可能性を定量的に予見することが困難なものだ。そのため、純粋リスクに対応するために在庫を持つことの是非も議論することが難しい。そこで、工場マネジャーには、純粋リスクそのものをどう減らすのかを考えることが求められる。例えば、「特定の調達先で災害などが発生した場合、主要部品の入手が困難になる危険性がある。そのために複数社からの購買を考える」といったことが純粋リスクへの対応の一例として挙げられる。

 一方、投機的リスクは、発生の可能性をある程度は定量的に予見することが可能なものだ。例えば、「原料価格が〇%程度高騰すると予測されるので、価格が安いうちに年間受注見込み量の範囲内で可能な限り多くの量を購入しておく」といったことが、投機的リスクへの対応の一例として挙げられる。

 ただし、後日、実績を踏まえて投機的リスクに対応するための在庫を持ったことが適切だったのか否かを客観的に振り返る必要がある。