実務者は「あった方が便利」「あった方が都合が良い」といった、その場の「必要性」に応じて在庫を持ちたいと考えるものだ。その結果、在庫を持っていたおかげで役に立ったことも、在庫を持っていたのに役に立たなかったこともあるだろう。実際に在庫が役に立ったのなら問題はない。だが、在庫が役に立たなかったのであれば、企業の金(キャッシュ)を無駄に消費してしまったことになる。
筆者は、在庫を「必要だから持つ」という考え方から、「経営の目的を果たすために持つ」という考え方に視点を切り替えるべきだと考えている。
例えば、企業は売り上げや利益の増加を目的としている。その目的を果たすために持った在庫が売り上げや利益の増加に貢献すれば、目的を果たすために役に立ったと評価できる。ところが、在庫を持っていても売り上げや利益の増加に貢献しなかった場合は、目的を果たすために役に立たなかったという評価になる。
後者の場合は、「在庫を持つべきだ」と判断したことのどこに改善すべき点があるのかを議論すればよい。漠然と「必要だから」とそれっぽい理由で在庫を持つのではなく、「何を実現するために在庫を持つのか」という明確な目的を意識することで、在庫の保有を経営視点で考えることができる。
ただし、いくら在庫を持つ目的を明確にした在庫であっても、現場の管理が適切に行われていなければ、その目的を果たすことはできない。読者も、受注の急増や調達量の急増によって倉庫や現場がものであふれかえり、生産が大いに混乱。そして、その現場の混乱によって納期遅延や品質問題の発生を引き起こした経験があるはずだ。
過大な在庫には現場の管理が不可欠
ある工場の事例だ。顧客からの増産要請があり、急きょ、増産対応の準備が始まった。必要と思われる原材料を事前に調達しておかなければ、顧客の要望には対応できなくなるため、確実と思われる営業情報を基に原材料の先行手配が始まった。
当然だが、入荷した原材料の量と工場で使用した原材料の量とが同じなら、工場内の原材料は一定水準でコントロールできる。そのため、原材料倉庫や現場での原材料置き場は状態を適切に維持することが可能だ。しかし、原材料の先行手配によって入荷した原材料の量が現時点における原材料の使用量を超えてしまうと、原材料倉庫や現場での原材料置き場は在庫であふれてしまう。
ほとんどの場合、工場には倉庫や現場のスペースに十分な余裕がない。通常以上の原材料を保有・管理しなければならなくなった倉庫や現場は、一時的な原材料の増加で大混乱に陥ってしまう。入荷した原材料をどこかに置かなければならないので、現場の空いている場所を見つけては、仮置きと称して在庫を置くことになる。その結果、フォークリフトの走行や現場の作業などに支障を来すなどして、さまざまな部門の生産性が悪化することになる。
それだけではない。いざ生産が始まっても、在庫管理システム上では必要な原材料が確実に保有されているのに、必要な原材料が今どこにあるのかがすぐには分からないといった事態が頻発する。現場のさまざまな場所に原材料が分散して置かれているためである。