全ての在庫は、「動いている在庫」と「寝ている在庫」に分けることができる。在庫が動いているのか寝ているのかは、コンビニエンスストア(以下、コンビニ)などの小売店をイメージすると分かりやすいだろう。
コンビニにおいて動いている在庫とは、商品を店頭に並べるとすぐに顧客が購入してくれるものだ。商品を仕入れて店頭に陳列するとすぐに売れるため、直ちに商品を補充することになる。これを頻繁に繰り返すのが、動いている在庫だ。
一方で、寝ている在庫とは、商品を店頭に並べるもののすぐには売れず、店頭に並べられたままのものをいう。
動いている在庫と寝ている在庫は、小売業においては売り上げの大小に直結するもので、「生きている在庫」と「死んでいる在庫」ともいわれる。特に、限られた面積で営業しているコンビニでは、売り上げを最大化するために店頭に並ぶ商品(在庫)が全て動いている在庫であることを徹底している。寝ている在庫は売り上げに寄与しないので、徹底して排除される。
さらに、コンビニでは動いている在庫に対しても、動きの速さを管理している。店頭に並べてその日のうちに売れるものは、非常に早く動いている在庫だ。数日のうちに販売されるものも、早く動いているほうの在庫と呼べるだろう。これに対し、店頭に並べてもすぐには売れず、1カ月ほどたってようやく販売されるのであれば、動きの遅い在庫、あるいはほとんど動いていない在庫などと位置付けられ、寝ている在庫と判断されてしまう。
「動いている在庫」が重要なのは製造業も同じ
製造業でも考え方は全く同じだ。製造業において動いている在庫とは、調達して納品されるとすぐに生産活動に使用される原材料や、前工程で加工されるとすぐに後工程の加工に使用される仕掛かり品、完成するとすぐに出荷される製品のように、工程内でとどまっている時間が短いものだ。
一方で寝ている在庫とは、調達してもすぐには使用されずに倉庫に保管されている原材料や、後工程で使用される予定がないまま工程内に保管されている仕掛かり品、完成しても販売の予定が当面ないまま倉庫に保管されている製品のように、工程内にとどまっている時間が長いものである。
製造業でもコンビニと同様に、保有する在庫に占める動いている在庫の比率を最大にし、寝ている在庫の比率を最小にすること、そして、動いている在庫の動きを可能な限り速くすることが効率の良い経営につながる。在庫の動く速さを重視するコンビニでは、商品回転率(製造業の棚卸資産回転率に相当)は約30回。これは在庫日数(棚卸資産回転日数)に換算すると約12日だ。これに対し、製造業では業種によって異なるが、平均的に見れば棚卸資産回転率は約9回、在庫日数に換算すると約40日程度となっている。
数日単位で在庫が寝ていることを問題視する小売業に比べ、もともとの在庫の動きが遅い製造業では、数日単位での在庫議論はあまりされない。しかし、薄利多売の厳しい事業環境で戦っているコンビニは、経営効率と利益の最大化を追求した結果、こうした管理を行っているというわけだ。
では、我々製造業はコンビニ業と比べて金に余裕のある経営をしているのだろうか。そうではないはずだ。「製造業と小売業とでは特性が違う」などと思考停止せず、もっと在庫の動きに目を向けるべきではないだろうか。