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 今、さまざまな情報が氾濫しており、電気自動車(EV)が増えるのか増えないのか分からないという非常にもどかしい状況になっていると思います。そこで、技術者としてさまざまな資料や関係者の話、政策などを徹底的に分析した上で、EVシフトがこれからどうなっていくのか、私の考えを話したいと思います。

Touson 自動車戦略研究所代表の藤村俊夫氏
Touson 自動車戦略研究所代表の藤村俊夫氏
(写真:日経クロステック)
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気候変動に伴う世界の被害状況

 ここ数年の自然災害を整理したものが図1です。ここで私が特筆したいのはシベリアです。シベリアには永久凍土があります。ここには1兆トン(t)ものメタンガスが封じ込まれています。さらには数千種類の細菌とウイルスも封じ込められていると言われます。ところが今、この永久凍土が溶け始めている。現在のシベリアの最高気温は東京都と同じく38℃。気候変動対策をしなければ、自然災害が頻発するだけではなく、現在我々が苦しんでいる新型コロナウイルス禍のような新たなウイルス禍がまん延し、経済成長どころではなくなってしまう可能性があるのです。

図1 気候変動に伴う世界各地での被害状況(2019~2020年)
図1 気候変動に伴う世界各地での被害状況(2019~2020年)
(出所:Touson 自動車戦略研究所)
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 こうした状況であるにもかかわらず、なかなかCO2が下がらないことにしびれを切らしたアントニオ・グテーレス国連事務総長は、2019年に開かれた国連気候変動サミットで「パリ協定で決めた2℃以下では甘い。世界の気温上昇は1.5℃以下に抑えるべきだ」だという話をしました。2度(℃)と1.5℃ではどう違うのかを示しましょう。

 図2に示す通り、2016年に発効されたパリ協定では「産業革命以降の平均気温上昇2℃以下を必達目標、1.5℃を努力目標、CO2排出量を2013年比で2050年に70%減、2050年から2100年の間に排出量ゼロを目指す」としました。これを2019年の国連気候変動サミットでは「1.5℃以下を必達目標とし、CO2排出量を2010年比で2030年に45%減、2050年に排出量ゼロを目指す」としました。実現するためには、こうした数値目標が必要です。しっかりと覚えておいてほしいのは、「2010年比で2030年までに45% CO2を下げる」というもの。これが数値目標です。

図2 気候変動対策は待ったなし
図2 気候変動対策は待ったなし
(出所:Touson 自動車戦略研究所)
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世界のCO2総排出量トレンド

 人間の行動によって排出されるCO2の量は約3000億トン(t)くらいですが、それは全てが大気中にとどまるわけではなく、大体60%くらいは海水あるいは土に溶け込みます。つまり、これまではCO2排出量と気温上昇の相関というのはほぼリニアな関係にあったわけですが、今後CO2が増えていくと当然海水の温度も上がります。すると、海中に溶け込むCO2の量が減るわけです。どういうことかというと、大気中にとどまるCO2の量が増えるのです。ということは今まで1次関数だったものが2次関数に変わります。すなわち、1.5℃超えてしまうと、気候変動危機の連鎖が始まってしまい、人類の手はどうにもならなくなってしまうのです。

 最近は報道番組などでも取り上げられるようになりましたが、ここ10年で真剣にCO2を下げないと2030年以降の人類の未来はない、と認識してください。企業の経営どころの話ではなく、生きるか死ぬかの問題と言っても過言ではありません。そこをよく理解すべきです。

 図3の青いラインが世界全体のCO2の排出量です。2019年まではいくら人間が頑張ってもCO2の排出量は下がりませんでした。ところが、新型コロナ禍によって経済活動が縮小されたために、初めてCO2の排出量が下がりました。しかし、アクシデントによって削減するのではなく、2030年に2010年比で45%削減、2020年比では48%の削減、つまり、317億tから165億tまで削減するための戦略を考えなくてはならないことを忘れてはいけません。

図3 世界のCO<sub>2</sub>の総排出量トレンド
図3 世界のCO2の総排出量トレンド
(出所:Touson 自動車戦略研究所)
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