電気自動車(EV)はテールパイプエミッションはゼロです。しかし、Well to Wheel(ウェル・トゥ・ホイール;油田からタイヤを駆動するまで、WtW)で二酸化炭素(CO2)の排出量を見る必要があります。化石燃料で電気をつくる国の場合、その過程でCO2を排出するため、WtWで見るとEVは決してクリーンではありません。もちろん、これは国によって違います。化石燃料で電気をつくっていない国の場合は別です。
自動車メーカーは、生産から廃棄までのCO2排出量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を踏まえて環境に寄与するか、また顧客に負担をかけないかを見極めてクルマづくりをしなければなりません。
そこで、各国のWtW でのCO2排出量を計算してみました(図1)。2018年の各国におけるエネルギーミックスから、1kW当たり何gのCO2が出るかを見てみました。日本はインド、中国に続いてワースト3位です。これは主要7カ国(G7)に入ってよいようなレベルではありません。私は大変情けないと思います。
図1(右)の①は2018年の実績です。③は、CO2を45%下げるということは排出係数を45%下げなければならないので、仮にそれができた場合にここまで下がるという数値です。これをベースにEVのWtWを計算して棒グラフに示し、ここにガソリン車とハイブリッド車(HEV)の数字を横線で入れました。その結果、インドはガソリン車並み、中国と日本、米国はHEVの方がEVよりもCO2が少ないという結果になります。では、2030年にはどうなるかを日本で見てみましょう。仮にCO2の45%削減が達成できたら、若干EVがHEVを下回ります。
LCAでのCO2排出量を比べると……
しかし、WtWだけではまだ甘いので、LCAで計算してみます(図2)。2030年に日本と欧州はLCA規制を導入すると言っています。ドイツは欧州で最もクルマを造っています。現時点でドイツはWtWで見るとEVとHEVのCO2排出量は等価です。ところが、これをLCAで見るとドイツだけではなく、日本、中国、米国のドイツを含めた4カ国全てが、今はEVよりもHEVの方がCO2が少ないのです。EVは電池を造るときにたくさんの電気を使うからです。車両を製造するときのCO2がHEVに対して2倍程度増えます。
ここで2030年に、仮に排出係数の45%削減が達成できたとします。すると、図2のように日本と中国は相変わらずHEVの方がCO2は少ないのですが、米国とドイツは若干EVの方が少なくなります。
顧客は何に魅力を感じてEVを買うのでしょうか。HEVよりもEVの方があらゆる面で性能が良く、CO2の排出量も少なくて、価格も下がればEVを買わない理由はないでしょう。
では、2030年に充電ステーションも2次電池も画期的なものが出来上がったとして、価格はHEV並みになっているでしょうか。私は、それはあり得ないと思っています。EVが高価格のまま2030年になり、補助金はなく(日本のEV購入の補助金は2025年に、中国では2026年に終了予定)、優遇措置もない。その時、果たして顧客はEVを選択するでしょうか。これはもう顧客次第です。
例えば、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)がEVの販売台数に関して強気な宣言をしています。私は「顧客が買ってくれますか?」と問いたい。顧客が買ってくれなければそれは達成できません。率直に言って、「お客様第一主義」ではない企業の戦略は破綻します。