日本政府には闇雲に電気自動車(EV)を推す前に、まずはしっかりと二酸化炭素(CO2)の基準値を厳しくしてほしいと思います(図1)。ここが全くできていないのにEVを推進しても、CO2削減には何の成果もありません。
日本も欧州も新車登録数は飽和しています。図2に示す既存の規制値で計算すると、欧州は、2030年に2020年比で保有車のCO2が41%減ります。日本では保有車のCO2は26%しか減りません。ここから分かることは、欧州ではガソリンスタンドに5%くらい合成液体燃料(e-fuel)を混ぜれば、CO2の45%削減を達成できる可能性があるということです(CO2削減の規制がこれから年率7%以上に強化できたと仮定して)。
これに対し、日本はCO2削減の規制が年率3.5%であるため、e-fuelなどを19%も混ぜなければ達成できません。すなわち、年率3.5%では話にならないのです。これよりも規制を2倍強化しなければなりません。そして、それに対応できない自動車メーカーは淘汰されていくことになると思います。それを避けたいなら(CO2削減に対応できる)大きな企業と連合を組めばよいのです。
欧州によるHEV推しの裏
各国政府は電動車(xEV)の導入についてさまざまなことを言っていますが、個人的には、政治的な思惑のあるものだと解釈しています(図3)。特に述べたいのは、ドイツとフランス、英国がディーゼルエンジン車(以下、ディーゼル車)とガソリンエンジン車(以下、エンジン車)を廃止すると言っており、欧州委員会はハイブリッド車(HEV)も廃止すると言っていることについてです。なぜ、そのようなことを宣言するのでしょうか。
世間の多くの人は、欧州がEVに注力しているのはEVが環境に良いからだと思っています。しかし、それは違います。以前、欧州は「クリーンディーゼル車」でCO2を減らそうとしたのですが、大きくつまずきました。一方で、HEVを造りたくても日本の自動車メーカーに席巻されている上に、自分たちは良いものを造れない。となると、残った駒はEVしかない。つまり、欧州はEVに舵(かじ)を切るしかなかったというわけです。
かつては中国も「これからはEVだ」と言っていました。中国はエンジン車にしてもHEVにしても世界最大の販売国であるにもかかわらず、良いものを造る技術がない。しかし、EVであれば各国が一斉にスタート地点に立つことになるため、世界に売り出せる良いものを造れるかもしれない。こうした理由からEVの開発を始めたのです。
ところが、中国にはNEV(New Energy Vehicle;新エネルギー車)規制に加えて燃費規制もあるため、中国の自動車メーカーからHEVがないと対応できないという声が上がってきました。そこで、日本の自動車メーカーからハイブリッドシステムを供与してもらうことにして、結局、中国はHEVに大きく舵を切りました。この点を理解しておくべきでしょう。