大阪府茨木市。近くを新名神高速道路が走る高台の上に、パナソニックグループが「現場革新」と名付けたデジタルトランスフォーメーション(DX)の実践拠点がある。企業向けの映像・音響機器や業務用端末といった事業を手掛けるパナソニックコネクトの、修理用部品を供給する「彩都サービスパーツセンター」だ。大阪府門真市にあった前身の施設を移して2018年10月に稼働し、8万品番の在庫を常備して世界25カ国へ部品を届けている。
パナソニックグループが挑むDXの箱庭――。パナソニックコネクトで現場革新活動のエバンジェリストを務める一力知一氏は、彩都パーツセンターをこう表現する。パナソニックコネクトの顧客向けの部品供給拠点であると同時に、現場革新活動の最先端技術を導入・実践し、効果を検証する実験場という意味を込めた。顧客企業を招いて成果を披露するショールームとしての役割も兼ねる。
実験の目的はパナソニックグループ全体のDXの先兵として、導入する技術や構築するシステムの効果を自ら確かめることだ。パナソニックコネクトの樋口泰行社長はAI(人工知能)をはじめとするソフトウエアの力を大胆に取り入れ、手作業やアナログなカイゼンに頼っていた従来のサプライチェーンを刷新する方針を掲げる。
パナソニックコネクトのモノづくり現場のデジタル変革を進めて収益性を高めると同時に、成果を基に顧客企業の現場改善を支援して収益を拡大する。さらにパナソニックグループの他の事業会社にもシステムやノウハウを横展開して、グループ全体の競争力を高める将来図を描く。
彩都パーツセンターの従業員は外部の請負を含めて60人あまり。グループ24万人の巨大企業の改革を先取りする、小さな箱庭の実像に迫った。
現場の可視化、標準化、最適化がカギ
現場の観察からボトルネックの発見、改善の仮説構築、作業工程のデータ計測、分析、改善の提案、実践と効果検証まで。彩都パーツセンターでは日々の物流業務にデジタル技術を取り入れ、活用している。
活動の土台はIE(インダストリアルエンジニアリング)だ。作業のやり方や時間の使い方を工夫して無駄を排除し、製造や物流の生産性を高めるための技術や仕組みづくりを指す。いわば「パナソニックが伝統的に強い改善活動を、学問として体系化したもの」(一力氏)だ。