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 「高値づかみではないかとの指摘はあった。ただ、私はビジネスモデルの盤石さを分かっていたので、何とか買収へ社内の合意を取り付けた」。パナソニックコネクトの樋口泰行社長がこう振り返るのは、米Blue Yonder(ブルーヨンダー)買収の経緯だ。

半年で3000億円値上がり、今なら「もう買えない」

 買収総額は約8630億円。2020年7月に20%分の株式を取得した額に、残る80%分の追加取得に費やした額の合計だ。2021年3月期のパナソニックコネクトの売上高8180億円を超える。

 樋口社長によれば、2020年7月にブルーヨンダーに20%出資してから半年あまりで同社の評価額は約3000億円上がったという。評価額の値上がりペースを考えると「今だったらもう買えないぐらいになっている」(同)。高値づかみではなかったとの考えだ。

 ブルーヨンダーは主に製造、物流、小売りの各業界向けにサプライチェーン管理のクラウドサービスを提供している。2021年12月期の売上高は約11億ドル(約1400億円)、世界に3000社の顧客を抱える。

米ブルーヨンダーが提供する主なクラウドサービス
米ブルーヨンダーが提供する主なクラウドサービス
(パナソニックコネクトの資料を基に日経クロステック作成)
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 事業計画から生産、物流、小売りまでサプライチェーン全体をカバーする。米ブルーヨンダーのウェイン・ユジー上級副社長によれば、AI(人工知能)による需要予測や各種の最適化が強みだ。例えば生鮮食品メーカーが生産量を予測する際に、自社の在庫や廃棄の数量、川下に当たる小売りにおける売れ行き、さらには天候などの外部データを使って需要を予測し、生産計画を立案できる。「AIによって新しい種類の変数を加味すべきといった事柄を自己学習していける」(ユジー上級副社長)。

 そうしたAIの実力が生かされた一例が、2021年3月に起きたエジプトのスエズ運河におけるコンテナ船の座礁事故だ。ユジー上級副社長によれば、同社の顧客企業が航行中のコンテナ船に積んでいる資材の供給停止の影響を自動的に計算し、代替品を手配して影響を軽減できたという。

 パナソニックコネクトはブルーヨンダーを取り込み、「オートノマス(自律的な)サプライチェーンの実現を目指す」(パナソニックコネクトの樋口社長)。例えば物流の場合、パナソニックコネクトの位置情報センサー機器で物流倉庫にいるトレーラーの動きを1台ずつ把握し倉庫の物量を調整するヤードマネジメント、小売りであればブルーヨンダーの技術で導いた需要予測を基に小売店舗の電子棚札の値付けを自動的に変えるダイナミックプライシングなどを想定している。現場のデジタル機器から得た情報をブルーヨンダーのクラウドサービスに取り込み、川上から川下までを結んだ動的なサプライチェーン管理を可能にするという。