支援型開発に徹した小田急電鉄
約1.7kmの駅間通路の魅力を大きく高めるのが、沿道の低層の店舗群だ。
小田急電鉄まちづくり事業本部エリア事業創造部の下田智博課長代理は、次のように話す。「下北沢には長く培われてきた独自の文化がある。鉄道会社だけで開発を進めては地元に受け入れられない。地元と対話を重ね、既存の文化を支え、地域の価値を高めるための『支援型開発』に徹した」
通路沿いには個性的な店が続き、鉄道グループのスーパーや大型チェーン店は見当たらない。施設の外構部に十分な緑地空間を確保したほか、土管を備えたイベントスペースや子どもに人気の小広場も整備した。
「事業者側だけで開発すると、決まった活動しか起こらない。我々が前面に出るのではなく、『緑を増やしたい』『様々な活動がしたい』といった住民の意見を反映し、多彩な施設づくりにつなげた」(小田急電鉄エリア事業創造部の小花璃美氏)
一見では分かりづらいが、区と小田急電鉄は沿道で「シームレスな街づくり」にこだわった。直線的な官民の管理区域の境界が単調にならないように工夫した。商業施設「ボーナストラック」の敷地の舗装は通路と同じ脱色アスファルトを採用。管理区域の境界をまたぐように緑地帯を配置した。
区拠点整備担当課の岸本課長は、「緑をより多く感じられるように、官民で一体的に整備した。空間に広がり感も生まれた」と話す。「通路側にはみ出る緑地には高木ではなく地被類を植え、緊急車両が通行しやすいようにした」(区拠点整備担当課の林唯二係長)
これら工夫の手引書となったのが、区が15年に作成した「北沢デザインガイド」だ。ベースに据えたのは、ワークショップで生まれた「つなぐ」というキーワード。線路跡地の整備で、自然を感じる空間や街の記憶、市民の関わりをつなぐといった意図が込められている。
ガイドでは、デザインコンセプトや方針のほか植栽、舗装、境界、照明などのデザインコードを細かく示した。「長期にわたるプロジェクトなので、たとえ区の担当者が変わってもデザインの意図が継承できる。民間側の開発でも設計の参考にしてもらった」。区北沢総合支所街づくり課の一坪博課長はこう説明する。