内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、2018~22年度に「SIP第2期の課題の一つである『自動運転(システムとサービスの拡張)』」(SIP第2期の自動運転)の中で、V2X(Vehicle to Everything)通信を使った協調型システムの検討・検証を実施している。中でも注目したいのが、東京臨海部で実施した以下の3つの実証実験である。
(1)臨海副都心地域の一般道で実施した信号情報(灯色と灯色が切り替わるまでの残秒数)の配信、(2)首都高の「空港西(入口)」で実施した自動料金収受システム(ETC)ゲート通過支援と本線への合流支援、(3)東京臨海部で実施した車線別の渋滞末尾情報などの交通環境情報の配信――である注1)。
信号情報配信はV2IとV2Nの2通りで検証
(1)の信号情報の配信に関する実証実験では、2019~20年度は、交差点33カ所の信号制御機に送受信機やアンテナをそれぞれ設置し、信号の灯色と灯色が切り替わるまでの残秒数の情報を路車間(Vehicle to Infrastructure、V2I)通信で配信した(図1)。
これらの交差点の信号機では、各信号制御機が信号の灯色の切り替えを制御しており、信号灯色と残秒数の情報を持っている。それを配信した。後述するが21年度は、クラウド-車両間(Vehicle to Network、V2N)通信による信号情報の配信に取り組んでいる。
V2I通信による信号情報配信の実証実験から判明したのは、信号の灯色や残秒数といった情報を配信する有効性の高さだ。一般道では、雨天や逆光、前方に存在する大きなトラックなど、さまざまな状況で信号機が見えなくなる。車載カメラによる信号灯色の認識だけに頼っていては、自動運転はままならない。車載カメラと路側から配信する信号情報によって2重系を組めば、自動運転の安全性や信頼性を高められる。
また、人間の運転では、交差点に進入したら信号が黄色から赤色に変わってしまうというケースが起こり得る。だが、自動運転車ではそうしたプログラミングは許されない。一方で、そうした状況に陥らないように、交差点ごとに低速で走っていたのでは後続のクルマに影響を与える。残秒数の情報があれば、確実に黄色の間に交差点を通過できるかどうかを判定できる。通過が難しい場合は、急ブレーキをかけずに済むように前もって減速することが可能になる注2)。
このように、一般道の自動運転では信号情報を配信する効果は高い。ただ、一般道に高度な自動運転車を広く普及させていくには、こうしたインフラを全面的に整備していくことが求められる。
ところが、V2I通信を用いると、個々の交差点の信号制御機に送受信機やアンテナといった装置を設置していかなければならない。コストも工事の手間もかかる。そこで、検討が始まったのが、モバイル通信網を介して信号情報を信号機の管制センターから配信するV2N通信方式である(図2)。SIP第2期の自動運転では、21年度にそうした実証実験も行っている。
この実証実験から分かったのは、信号情報を第4世代移動通信システム(4G)/LTE(モバイル通信)によるV2N通信で配信すると、条件が悪い場合、情報の発信源から受信するところまでの間で、2~3秒の遅延が発生することだ。そこで考えたのが配信する信号情報の中身の変更だ。すなわち、今信号が何色かという情報ではなく、何時何分何秒に何色に変わるかという灯色の予定情報に変えた。信号機の管制センターにそれを生成してもらってクラウド上のサーバーから配信している。受信したクルマはその予定情報を基に今何色かを判定して利用する。
V2N通信による信号情報の配信には遅延というマイナス面もあるが、理論的には日本全国どの場所の予定情報でも取得できるというメリットもある注3)。自動運転車では自車の進路が分かっているため、通過予定の交差点の情報を一括して取得することも可能だ。進路上の全ての信号機の灯色がどう切り替わっていくかが分かるので、新たな活用が期待される注4)。