ジャパンディスプレイ(JDI)は2022年5月に米国で開催されたディスプレー技術の国際学会・展示会「SID Display Week 2022」で、VRゴーグル向けのレンズ代わりとなる「ホログラフィック光学系」を開発し、論文発表した。VRゴーグルを着用した際の、目とディスプレーの距離を大きく縮めることができ、ゴーグルの薄型化や軽量化、消費電力の低減にもつながるという。ホログラフィック光学系は、米Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)が最新のVRゴーグルの試作品「Holocake 2」に採用したことを明らかにするなど、今後のVRゴーグルの主流技術の1つになる可能性がある。
このホログラフィック光学系は、光の干渉縞を樹脂フィルムに記録したホログラム(Holographic Optical Elements:HOE)を高精度な回折格子の一種として用いることで、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の特定の波長の光の屈折や反射を高効率に実現する技術である(図1)。
これまでVRゴーグルの多くは、ディスプレーの映像を目に届けるための光学系の占有体積が大きく、顔のほとんどを覆う大きくて重い“箱”を装着する格好になっていた(図2)。
ゴーグルの薄型化、軽量化が進みだしたのはごく最近だ。学会では「パンケーキ光学系」と呼ばれる新しい光学系が発表されるようになった(図2(b))。これは、従来型レンズの代わりにハーフミラーや反射型偏光子を組み合わせたものを使い、2つの素子間で光を2度反射させて光路長をかせぐことで、ディスプレーと目の間の距離を大きく縮める技術である。2021年5月のSID Display Week 2021で米Facebook(現メタ)が発表した技術もこのパンケーキ光学系だった。
ただこれには大きく2つ課題があった。1つは、ハーフミラーを使うことでそこを光が透過、または反射するごとに光の1/2が失われる点。パンケーキ光学系の一般的な設計ではディスプレーから出た光が目に届くまでに25%以下の光量になってしまう。これは消費電力の増大につながる。もう1つは、ハーフミラーや反射型偏光子にレンズや反射鏡の役割を持たせるため、それらを湾曲させる必要があり、光学系の厚み低減の壁になっていた点だ。
JDIは今回の学会で、HOEをハーフミラーの代わりに使うことで光の利用効率が大きく向上し、しかも光学系の厚みを大幅に低減できたと発表した(図2(c))。JDIの試作例では、従来型の光学系の厚みが41mmだったのに対し、今回の技術では同16mmまで薄くできたという。