2019年から広がった新型コロナウイルス感染症が(1)自動化技術による生産性向上、(2)遠隔操縦技術による安全性向上・知能性向上、(3)自己拡張技術による幸福度向上、という3つの提供価値に大きな影響を与えた。それはロボットの価値自体が変化したというより、ロボットが有する価値を求める声が増え、社会実装が早まったというものである。
一例を挙げると、もともと自動化による生産性向上は、生産年齢人口の減少という問題が根本にあった。総務省などによると、日本における生産年齢人口は20年との比較で30年には約530万人、50年には約2130万人減少するといわれており、現状の経済規模を維持しようとすると、生産性をどのように上げるのか、労働力をいかに確保するのかという課題を避けて通ることができない。
しかも、すでに数年前から地方などを中心として物流や小売りの末端の現場で人手が集まらないという事態も起き始めていた。海外からの留学生や一度リタイアした高齢者などを新たな働き手として受け入れながらも、更なる手としてロボットの活用に向けた準備、導入が進められていた。
ところが、新型コロナウイルスにより、状況は一変する。頼みの綱であった海外からの働き手はそもそも不在となり、高齢者は感染時のリスクから非接触思考が強くなった。これによって感染拡大による一時的なロックダウンに伴い販売台数が落ち込んだ時期もあったものの、工場などの多くの製造現場や飲食店などのサービスの現場でもロボットの導入が加速的に進んだ。屋内環境における移動ロボットはかなり市民権を得たようにも思える。
また、「新しい生活様式」という非接触化、在宅化の流れの中で、これまでなかなか進んでいなかった屋外、特に公道でのロボット活用も、米国や中国に遅れをとっていた日本でも環境が一気に変わった。コロナ禍で爆発的に増えたEC需要や巣籠り需要に対応するためにも、非接触での配達が可能な配送ロボットの社会実装が急務となり、22年3月には公道で配送ロボットなどを走行させるための道路交通法の改正に関して閣議決定が行われた。複数の企業が公道での配送サービス実証を行い、その走行距離は2000kmを超えるまでになっている。
この配送ロボットの取り組みでは、自動化による効率化と遠隔操縦による知能化がハイブリッドで進められている。例えばパナソニックホールディングスは、神奈川県藤沢市において複数の配送ロボットを活用し、配送先までの自動配達を行っている。ただし、大型の配達車両が路肩に一時駐車している場合には、配達ロボットを道路中央付近まで移動して、迂回する必要がある。そのようなケースでは、自動走行モードから遠隔操縦モードへと切り替わり、東京の管制センターにいる遠隔オペレーターが周囲の安全を確認しながら車両を回避し、元の経路に戻ってから、再び自動走行モードで目的地を目指すようになっている。
このような遠隔操縦の積極的な活用は、前述したようにもともとは原発や手術室などの限定的なシーンがメインであったものの、より社会に溶け込む形で利用も広がっている。代表的な例として、グッドデザイン賞大賞を受賞したオリィ研究所(東京・中央)の「分身ロボットカフェDAWN ver.β」は、ロボットを介して難病などを患う外出困難者とカフェ(実店舗)をつないでおり、人々の生活様式に変化を与えたといえる。
また、大手企業も続々とこの遠隔操縦分野に注目・進出しており、川崎重工業とソニーグループは共同でリモートロボティクス(東京・港)を設立し、全ての人々が社会参加できるリモート社会の実現を目指した取り組みを推進し始めた。例えば、同社は22年の国際ロボット展で、遠隔地に居ながらタブレットでロボットを制御し、薬品製造を行うデモを披露している。このことは、まさに遠隔化・リモートに関する技術が新しいフェーズに移行としている様子を物語っている。