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 「相模屋食料(前橋市)」という会社をご存じだろうか。

 正解は豆腐屋さんだ。ロボットの連載で、なぜ豆腐屋さん?と思われるかもしれないが、実は同社はロボットの導入でビジネスの在り方が大きく変化した企業なのだ。その成果は年商にも表れている。2004年度は売上高32億円に対し、21年度は売上高327億円以上となり、20年弱で約10倍も成長している。今や豆腐の国内トップシェアを誇る優良企業だ。

 ロボットの導入時、同社は当時の年間売り上げを超える40億円の投資を実施した。その資金で相模屋食料の第三工場を整えたのだ。大勝負ともいえるこの投資判断は、同社の急拡大を支える1つの要因となった。

 相模屋食料が最初にロボットを導入したのは、豆腐をトレーに詰める工程である。それまでは人手で豆腐をつかんでトレーに詰めていた。もしかしたら、読者の皆さんの近所の豆腐屋さんでは、水が張られた水槽の中からお店の人がトレーに詰めているかもしれない。実は豆腐の製造工程は多くの工程で自動化が進んだものの、このトレーに豆腐を詰める工程を自動化するのは難しかった。豆腐は軟らかく、崩れやすい。そんな柔軟物を扱うことはロボットにとって難しい作業なのだ。

 ロボット業界には、「モラベックのパラドックス」という言葉がある。ロボット工学の研究者などが提唱したパラドックスで、簡単にいえば、知能のみで実行可能なタスクよりも、触覚などの感覚、単純な運動を必要とするタスクのほうが難しいというものである。チェスや囲碁の世界トップレベルのプレーヤーに勝利することよりも、1歳児ができるような運動スキルをロボットに実装することが難しいのだ。

 相模屋食料のケースだと、このパラドックスを乗り越えるために、見事な発想の転換を行っている。ロボットがつかむ対象を崩れやすい豆腐でなく、比較的つかみやすいトレーにした。つまりロボットはトレーをつかみ、そのトレーを動かして切り分けた豆腐を梱包するようにした。人が行っている作業をそのままロボット化する「ロボタイゼーション(Robotization)」ではなく、どうすれば目的が達成されるかに視点を移し、ロボット活用を進めたわけだ。

相模屋食料におけるロボット活用
相模屋食料におけるロボット活用
(写真:相模屋食料)
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