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 本連載をここまで読んでくださった方から、「分析しているだけではロボットは作れない」とお叱りを受けそうである。確かに、分析だけでは、解くべき課題まではたどり着けても、解くことは難しい。そして、よほど定型化した課題でなければ一発で解くことは難しい。

 そこで、開発・導入で重要になるのが、利用現場での実証評価である。本当に課題が解決できるのか見極める必要があるからだ。最近では、この作業をPoC(ポック、Proof of Concept、概念実証)と呼ぶことも多い。

 PoCは現場に実機などを持ち込んで、実際に検証対象が有用かを見極める検証作業である。概念検証と現場での実証は違うかもしれないが、ロボットの導入検討の現場では、ほぼ同じ意味で使われているケースがほとんどである。

 いよいよ人手不足が顕在化し、さらには新型コロナウイルス対策のため、非接触に対する要望も増えている。一方で、AI(人工知能)や5G(第5世代移動通信システム)などを含むテクノロジー側も日進月歩で進化している。こうした状況を背景に多くのPoCが進められている。ここ数年は、ロボットに関するニュースが頻繁にメディアに掲載されるようになった。本連載を執筆している今も、「配送ロボットが店舗からの配達を実現」や「掃除ロボットがエレベーターを自動乗降」などの多くのニュースが報じられている。

 ロボットの開発部隊の責任者でもある筆者自身の身の回りでも、PoC段階の案件が多くなった実感がある。まだ商品になっていないロボットの検証という目的だけでも年間10件以上のPoCが実施されている。

 さらに、「現場を自由に使えるので、ロボットによって、どんなことが実現できるのかを検証したい」という問い合わせも増えている。とはいえ、大変申し訳ないことにリソースの関係で全てに対応できていない。

 ところが、である。PoC案件は山ほどあるのに、ロボットが「実導入された」「本格導入された」というニュースは、あまり聞かない。「導入」というタイトルで報じられるニュースも、よくよく関係者に聞くと費用の発生しない試験的な導入であったというケースも多い。つまり、実証までは進むものの、本格導入には至らないというケースが多いのだ。

 もちろん、数億円や数十億円のビジネス案件につながったという話もあるので、全てが実証で終わっているわけでもない。検証した結果、ビジネス判断として本格導入を見送ったというケースもある。全力を尽くしたのであれば、開発側も導入側も納得のいく結果であろう。

 問題はそうではない場合だ。つまり、PoC自体が目的になってしまうケースが散見される。そのようなPoCに意味がないわけではないが、PoCは“やった感”を生む麻薬のような存在になる。「現場を自由に使っていいよ」「とりあえず使ってみる」「もう少し検討したい」などの言葉が出るPoCには要注意である。知らず知らずのうちに、開発側もユーザー側も、ゴールのないまま消耗していく場合がある。

 いつまでも続くPoCは、それ自体が開発側に負荷をかけるだけではない。なかなか実導入につながらなければ、開発者の身体的・精神的にも、開発企業側の財務的にも疲弊していく。いわゆる「PoC疲れ」「PoC死」と呼ばれる状況に陥ってしまう。

 まだまだ黎明(れいめい)期にあるサービスロボット活用において、適切なユースケースの探索や費用対効果の検証のため、複数回にわたる実証活動が必要なのは仕方ない側面もある。実証活動が広報活動になり、これまで接点がなかった顧客候補へアプローチできる有効なケースになることも理解できる。

 加えて世の中の開発手法のトレンドとして、仕様をしっかり決めてから取り掛かるウオーターフォール型から、評価しながら作っていくアジャイル型へと開発プロセスの移行が進んでおり、メーカーも現場で評価しながら試行錯誤して開発を繰り返すようになりつつある。この方向性はPoCと相性がよく、それによってもPoCの数が増えやすくなっているのだろう。

 ただロボットのPoCでは、未活用領域において「まず使ってみる」ことが目的化しているケースが多い。そうしたPoCにおいては、ユーザーもメーカーも知見を蓄積するものの、なかなか導入に至らない。知見は重要だが、それだけでは理想のソリューションに至らないだろう。