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 ここまでの連載で、いつの間にかロボット開発が目的化してしまう「ロボットの魔力」の恐ろしさ、そしてそれを脱する必要性についてご理解いただけたものと思う。ここからは、ユーザーとの共創という文脈の中で、主にPoC(概念実証)の技術検証フェーズでロボットの性能を最大限に引き出す環境づくりを考えてみたい。

 以前、「モラベックのパラドックス」を紹介した。アメリカで活動したロボティクスや人工知能(AI)の専門家であるHans P. Moravec氏、Rodney Allen Brooks氏、Marvin Minsky氏が1980年代後半に提唱したもので、“it is comparatively easy to make computers exhibit adult level performance on intelligence tests or playing checkers, and difficult or impossible to give them the skills of a one-year-old when it comes to perception and mobility.(コンピューターに、知能テストやボードゲームで大人レベルの性能を発揮させることは比較的容易であるが、1歳児の知覚や移動に関するスキルを与えることは難しいか不可能である)”という内容である。

 深層学習などの発達により、コンピューターがチェスやクイズゲームの世界チャンピオンに勝ったというニュースに対して世間は驚かなくなった。一方で1歳児が凸凹の地面を歩くような身体的な運動スキルを安定的に実現できる補助ロボットができれば大騒ぎになるだろう。

 米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)が鮮やかにパルクールをこなす2足歩行ロボットを動画投稿サイトで発表したこともあり、モラベックのパラドックスが一部解決し始めたようにも感じるものの、日常生活に溶け込めるほどの完成度にはまだ遠い。

 何かをつかんだり、移動したりするといった物理世界におけるタスクはロボットにとってはかなりレベルが高い。その結果として、人から見たときには、ロボットはこんな簡単なこともできないのかと落胆してしまう。