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技術的負債問題は一朝一夕には解決しない。システムの中核構造の見直しから最新技術の採用、組織再編まで、改革は数年がかりだ。JAL、日本生命、日清食品、ヤフー、メルカリ、クックパッドの挑戦を追った。

日本航空
クラウド前提 皆の力で立ち向かう

 Go Toクラウド。日本航空(JAL)はこんな合言葉を掲げ、技術的負債の返済プロジェクトに取り組んでいる。クラウド活用を前提に、全社のITシステムのアーキテクチャーから開発・運用体制、IT人材のスキルや組織体制までを刷新。既存システムが抱えていた技術的負債を減らすとともに、将来の発生を最小限に抑える土台を築く。

図 日本航空(JAL)のクラウドを基盤にした技術的負債問題への取り組み
図 日本航空(JAL)のクラウドを基盤にした技術的負債問題への取り組み
チームで負債に立ち向かう
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 「(グループのITに携わる人員)皆で技術的負債に立ち向かえるようにする」。JALの庄司稔IT企画本部IT運営企画部技術戦略グループグループ長はプロジェクトの目標をこう話す。

 当面のめどは2024年。全社のシステムのうち、クラウドで動かしているシステムの割合を7~8割まで高める。

 既に予約や発券といった業務を担う旅客系基幹システムは、スペインのアマデウスITグループが運営するクラウドサービス「Altea」に移行済み。この経験を基に、他の基幹業務システムや顧客向けシステムを順次見直し、開発生産性の向上やシステムトラブルの防止を図る。

 Go Toクラウドは単にシステムをオンプレミスからクラウドに移すだけを意味しない。あらかじめハードウエアやミドルウエアを準備する必要のない「サーバーレス」の活用をはじめとした、「実体を伴ったクラウドへの移行」(高橋洋IT企画本部IT推進企画部生産系システム推進グループグループ長)こそが、本当の狙いだ。クラウドネーティブな最新技術を随時取り込めるようにしてはじめて、技術的負債の抑制につながるとの考えが根底にある。

 この考えの下、JALは「クラウドCoE」と呼ぶ組織を設けた。CoEとは、センター・オブ・エクセレンスの略で、ある分野の高いスキルや知見を備えた人材や事例を全社から集約した組織を指す。JALのクラウドCoEはGo Toクラウドに基づく技術的負債返済プロジェクトで中核的な役割を果たす。

 具体的には、クラウドネーティブなアーキテクチャーの検討や適切なクラウドサービスの選定、設計作業の支援、セキュリティー設定の確認などを担う。支援・実施した作業のノウハウをクラウドCoEに吸い上げ、組織としての能力を高めていく。

 ITエンジニアや開発組織が単独・個別に技術的負債を解消するのは、骨が折れるだけでなく効率も高めにくい。知見の受け皿となるクラウドCoEが「まず先駆者として伴走し、クラウド活用の経験を積んでもらう。知見や実績を点から線、面へと広げ、最終的にはクラウドCoEがなくてもそれぞれの開発組織が(負債の抑制へ)自走できるようになるのが理想だ」(同)。