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技術的負債との付き合いに終わりはない。返済のめどを立てたうえで受け入れるのもまた現実解だ。経営陣の理解を得つつ、適切に手なずける活動を続ける必要がある。

 「避けて通れない課題」「技術だけでなく経営として取り組むべきだ」「定期的にコツコツと返していくのが理想」――。先進各社が述べる技術的負債との向き合い方。その試行錯誤から3つのポイントが見えてきた。

図 技術的負債問題の解消に向けた3つのポイント
図 技術的負債問題の解消に向けた3つのポイント
技術だけでは解決しない(写真:Getty Images)
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成果をアピールする努力を

 最重要ポイントはIT部門やITエンジニア組織と経営陣が、技術的負債に関して密にコミュニケーションを図ることだ。「技術的負債の問題は経営課題そのものだ」。レクターの広木大地取締役はこう指摘する。

 技術的負債問題を調査したり解消したりしようとすれば一定程度のITエンジニアのリソースが要る。そうすると事業強化や業務改革に割くエンジニアリソースが減る。どうバランスを取るか、経営判断を伴うのが当然である。

 ただ経営陣の理解を得るのは容易ではない。一般的に経営者が責任を持つのは経営成績であり、関心があるのは業績指標だからだ。

 さりとて「経営者が理解してくれない」と、コミュニケーションが乏しい原因を経営陣側に押しつけるだけでは前進しない。広木取締役はITエンジニア側の努力を促す。技術的負債の悪影響や解消による成果を経営陣にも分かるよう、説明に力を尽くしていないケースが散見されるからだ。

 技術的負債の問題解消へ経営陣の理解を得るには、影響や効果を経営陣にも分かる形で見える化したり、成果を社内外へ積極的にアピールしたりする必要がある。前回記事で挙げた日本生命保険の「デジタル5カ年計画」に基づく経営陣への報告やメルカリのRFSプロジェクトにおける指標の計測活動は、見える化の好例だ。

 日清食品ホールディングスは技術的負債解消の成果を社内外へ積極的に発信し、成果を上げている。同社はメインフレームを撤去した後のコンピューター室や旧システムを停止した瞬間を見守る社員の様子など、レガシーシステム終了プロジェクトの節目を写真や映像で撮影。社内向け説明会で披露し、数字と視覚で成果を表現した。

 さらに当時のプロジェクトメンバーが安藤宏基社長に働きかけ、朝礼や社内報でメインフレームからERP(統合基幹業務システム)パッケージに移行する必要性を説いてもらった。社外向けの広報活動にも力を入れ、企業情報化協会(IT協会)が主催する「IT賞」で最上位の受賞につなげた。

 「新システムをつくった取り組みではなく、システムを捨てて残業を減らした取り組みが評価されるとは驚きだった」(中野啓太情報企画部次長)。評価されにくい技術的負債解消に取り組むIT部門のモチベーション向上にもつながっているという。

 社外へのアピールは、将来の技術的負債を抑制する種まきにもつながるかもしれない。BASEの川口将貴執行役員CTO(最高技術責任者)は、技術的負債の問題に対して適切に対処する姿勢を示すことで、優れた人材が集まってくるとする。「誰しも開発生産性の低い職場で働きたくはない。IT人材は流動性が高いので会社の評判が知れ渡りやすい。技術的負債の問題放置は採用面でもマイナスだ」(川口CTO)。