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 日清紡ホールディングス傘下の日清紡ブレーキ(東京・中央)は2022年4月、自動車ブレーキに使う摩擦材の性能を試験する旭テストコース(千葉県旭市)にローカル5G(第5世代移動通信システム)を導入し、運用を開始した。実車を使った試験結果をローカル5G経由でサーバーへ送り、すぐに館林事業所(群馬県邑楽町)にいる設計・開発部隊と情報共有できるようにした。開発の高速化が期待できる。

 東京駅から電車で約2時間。いくつもの田んぼを通り過ぎた先に、旭テストコースはある。かつて海軍香取航空基地の滑走路だった直線距離約1.4kmの細長い道をほぼそのままテストコースとして使用している。

旭テストコース
旭テストコース
1周2.85kmの周回路に加えて、勾配の付いた坂路や水路がある。(出所:日清紡ブレーキ)
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基地局1基でテストコース全体をカバー

 テストコースの全域に電波が届くように、日清紡グループでローカル5G関連の機器など無線通信システムの製造販売を手掛ける日本無線(東京・中野)が、指向性の強い特殊なアンテナを開発した。通常、基地局が発する電波は60°程度の範囲に飛ぶが、今回は狭指向角の特性を活かした。電波の飛ぶ範囲を狭めた分、遠くまで飛ばせるため、Sub-6帯(4.8~4.9GHz)の電波を発する基地局1基でテストコース全体をカバーできたという。

テストコースに設置したローカル5Gのアンテナ
テストコースに設置したローカル5Gのアンテナ
(出所:日経クロステック)
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 日清紡ブレーキは、日系自動車メーカーの乗用車向け摩擦材(ディスクパッド、ブレーキライニング)でトップシェアを誇る。各自動車メーカーが求める性能を満たす摩擦材を開発するため1種類の摩擦材につき、100程度の試験を実施している。代表的な試験としては、ブレーキの効き、耐摩耗性、さびへの耐性、異音などを含むNVH(騒音、振動、乗り心地)を確認する試験がある。

 多くの性能は実車を使わずに、ダイナモメーターやコンピューターシミュレーションで確認できるため、主に開発部隊がいる館林事業所で行っている。一方でNVHの性能は、完成車の形になって初めて鳴る異音があるため、旭テストコースでの実車試験が欠かせない。

 実車試験では試験したい摩擦材を取り付け、さまざまな条件で走行する。その際、車に搭載した約10個のセンサーで車両加速度やトルクといった走行に関するデータを取得する。加えて、ドライバーによる官能評価も行う。異音がした場合、ドライバーはその時の走行条件と共に、どのような音だったかをタブレット端末などで記録する。データは車両に搭載したデータロガーなどに蓄積される。

実車試験で得られるデータのサンプル
実車試験で得られるデータのサンプル
センサーから得られるデータ(左)とドライバーが入力する官能評価のデータ(右)がある。ドライバーは聞き取った異音を「ゴゴッ」といった文字で記録する。(出所:日清紡ブレーキ)
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 従来は、約4時間の走行が終わったあとに、たまったデータをUSBなどでローカルサーバーへ移していた。ただ、「製品開発において4時間のロスは大きい」(日清紡ブレーキソリューション開発部部長の山口慶之氏)。