「4K(3840×2160画素)で撮影した高精細映像のデータを5G(第5世代移動通信システム)で送受信してパソコンのディスプレーに表示されるまで0.6秒程度の低遅延であると確認した。この時、30fps程度のフレームレートで伝送できた」
日本製鉄情報システム部部長の中川義明氏は、2022年1月から同社室蘭製鉄所(北海道室蘭市)において日鉄ソリューションズと共同で実施したローカル5Gによる通信ネットワークの実証実験(図1)の手応えについてこう語る。
実証実験の主な内容は以下の2つだ。
[1]約785万m2という広大な敷地(5Gの電波の照射範囲は概算で100万m2程度)内におけるローカル5Gの電波強度の確認。
[2]2K~4Kクラスの高精細動画データを伝送する際の遅延などの確認。
日本製鉄は室蘭製鉄所内に無線通信ネットワークを構築し、所内にあるクレーンや銑鉄運搬用のディーゼル機関車(トーピードカー)を遠隔操作するといった構想を描いている。Wi-Fiに比べて広範囲に電波が届き、プライベートLTE*1に比べて大容量のデータを低遅延で送れるという触れ込みの5Gは、その通信手段としてうってつけだった。
広範囲に電波が届けば基地局の設置数を減らせるので、設置に必要な光ファイバーなどの埋設工事を減らせる。カメラで撮影した2K、4Kクラスの高精細画像など大容量データを低遅延で伝送できれば、銑鉄などの高温の重量物を運んだり移動させたりする機関車やクレーンなどを安全に遠隔操作できる可能性が高まる。
例えば、港のガントリークレーンを遠隔操作できれば、クレーンまで操縦者が移動する必要がなくなる。ただし、安全な遠隔操作には、高精細映像による積み下ろし作業のモニタリングが求められる。しかも映像の伝送にはリアルタイム性が重要となる。伝送の大きな遅延は操作ミスを招きかねず、事故の危険性をはらむ。
室蘭製鉄所では2020年8月から、敷地内にプライベートLTEによる通信ネットワークを構築。4K高精細映像の伝送を実験していた(図2)。しかし、「2K映像でもフレームレートを相当、落とさないときちんと伝送するのは苦しいと実感した」(中川氏)。こうした結果を踏まえて、同社はローカル5Gの実証実験に挑んだわけだ。