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東京大学大学院工学系研究科教授の中尾彰宏氏は、5G(第5世代移動通信システム)の通信ネットワークを民間企業などが独自に構築できる「ローカル5G」の普及に腐心する。目指すは通信事業者だけではなく、一般企業などが一丸となって技術を発展させる情報通信の「民主化」だ。ボトムアップによる通信産業の革新を狙っている。(聞き手は高市清治、岩野 恵、吉田 勝)

 ローカル5Gは、導入企業などが独自に情報通信技術の新たな機能やサービスに挑戦できます。その何が素晴らしいか。それは、多様な人が関わることによって革新が生まれやすくなる点です。革新を起こすにはより多くの人が関わり、多様な考えを持った人がアイデアを出せる状況が重要です。

 従来は、我々のような情報通信の研究者、通信事業者と情報通信機器ベンダーがアイデアを出し、ハードウエアやソフトウエアを開発し、規格の標準化などに取り組んできました。ユーザーは与えられたサービスを購入するだけでしたが、これからはユーザーが情報通信の進化をさせる活動に参加できるのです。

東京大学大学院工学系研究科教授の中尾 彰宏氏
東京大学大学院工学系研究科教授の中尾 彰宏氏
(写真:加藤 康)
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情報通信革新の肝は「ソフトウエア化」

 大勢のユーザーによる多様な視点とアイデアが、さまざまな使い方とビジネスモデルを編み出すはずです。多様な人が関わるといっても、ほとんど1企業内だけで検討と判断ができるので、ユーザーの要望への対応や、技術的課題の解決への取り組みは迅速にできます。

 そのためにはハードウエアやサービスの価格をより低廉にしていく必要があるのはもちろんですが、ハードウエアのカスタマイズ性も重要です。基地局の部品の一部が、秋葉原の電気街でも購入できるような市販品であれば理想です。自作パソコン感覚でインフラを組み立てられるようになる。つまり汎用ハードウエア上のソフトウエアやカスタム可能なハードウエア(Software Define Radioなど)で情報通信の機器が構築できるようになる、いわゆる「ソフトウエア化」が情報通信の技術革新を促すための肝だと考えています。実現すれば、ソフトウエアのバージョンアップに注力できるので、技術開発の進化も圧倒的に速くなるでしょう。

 同様にサービスもシンプルに実現できるようにしたい。人工知能(AI)によるエリア構築の支援を導入し、1回のコンサルティングで、基地局やアンテナを設置したらすぐにネットワークを使える、といったレベルにするのが理想です。現実的な話、その方がローカル5Gのネットワーク構築に必要な人件費も下げられ、サービス価格を低廉化できるメリットもあるはずです。

 その上でユーザーにどんどんネットワークを使ってもらい、要求仕様が示されたらすぐに対応する。こんな流れが生まれれば、ローカル5Gからさまざまな技術が、そしてビジネスが誕生するでしょう。

 あとはローカル5Gの免許取得のハードルをもう少し下げられると良いですね。用途や規模によって免許のメニューも多様化し、最低限の手続きで取得できる免許があってもいいと思っています。実現すればローカル5Gの裾野がぐんと広がるはずです。