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食品に関連する膨大なデータベースを活用し、商品企画や開発プロセスを効率化する潮流が勢いを増している。主導するのは伊藤忠商事だ。同社は2021年7月、食のDX支援サービス「FOODATA」の提供を開始。伊藤園などの大手食品メーカーのみならず、プライベートブランドを手掛ける小売業大手からも引き合い多数という。

 経験や勘を重視してきた食品の商品開発で、デジタル活用の機運が高まっている。背景にあるのは、近年急速に進む商品サイクルの短周期化だ。SNSの普及やマーケティング手法の多様化によって、消費者の嗜好は日々激しく移り変わるようになった。つい先日まではやっていた商品が、在庫処分セールに回されることも珍しくはない。

 だから、食品メーカーは、消費者の変化にすばやく対応した商品開発が求められる。しかし「『勘と経験』の企画・開発ではスムーズに商品が生み出せない」(伊藤忠商事 食料カンパニー リテール開発部の葛西大気氏)。「勘と経験」は主観的な情報なので、いくら社内のベテランの感想といえども、簡単には意見が通らないからだ。結果として、発売時期のジャストタイミングを逃してしまう。これではヒット商品を売り出せない。

味データを商品コンセプトの根拠に

 伊藤忠商事が中心となって提供する「FOODATA」は、10万品種以上の味のデータベースをはじめとして、POSデータ、消費者調査の結果、SNSデータなどが登録されている(図1)。契約した食品メーカーは、これらのデータを商品企画や開発のエビデンスにする。「人間の『勘と経験』を否定するのでなく、その根拠を用意する」(葛西氏)ことで、迅速な意思決定を支援するのが狙いだ。

図1 データの多様な掛け合わせでマーケティング分析
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図1 データの多様な掛け合わせでマーケティング分析
伊藤忠商事が提供する「FOODATA」内のデータと分析例を示した。味覚データとPOSデータ、消費者調査、SNS分析などのデータを掛け合わせて、統合解析するのが特徴(出所:伊藤忠商事の資料を基に日経クロステックが作成)

 もっとも、味の定量的な市場分析はFOODATAが最初ではない。大手食品メーカーはこれまでにも独自の市場調査を実施してきた。FOODATAがそれらと異なるのは、各データベースを統合解析することで、商品の味と、消費者の選択傾向に因果関係を見いだす点だと伊藤忠商事は強調する。

 「POSデータと関連付けて年齢別の味の嗜好を分析すると、予想外の事実が見えてくることが多々ある」(葛西氏)。例えば、複数の米菓スナックの味データと、それらの購買データをひもづけた。すると、高齢者ほど酸味を求める傾向が明らかになった。これまでの分析では発見できなかった知見だ。

 伊藤忠商事の食料カンパニーは、原料供給から製造加工、流通、小売りに至るまで、食に関する事業活動を丸ごと扱っている強みを持つ。今後は各事業領域のノウハウを生かして、FOODATAのサービスを順次拡充していく方針だ。具体的な内容は明かさないが、原料供給に関するデータを組み入れたり、機械学習を活用して未来の市場動向を予測し、先手を打った食品開発につなげたりする計画もあるという。