メールの通信経路の一部は暗号化されていない。このため盗聴などのリスクがある。それにもかかわらず使い続けられている。メールが登場した半世紀以上前ならいざ知らず、現在では様々な技術やサービスが登場している。メールの代替となる技術やサービスは存在しないのだろうか。
通信経路では確実に暗号化
メールの代替としては、近年存在感を増しているビジネスチャットが候補として挙げられるだろう。ビジネスチャットでは、クライアントに専用ソフト(デスクトップクライアントソフト)やWebブラウザーを使用する。これらのクライアントとサービスを提供するサーバーの間は、Webの暗号化の仕組みであるHTTPSを使っている。このため盗聴される危険性が低い。
Webメールでもクライアントとサーバー間はHTTPSで接続するため盗聴されにくい。だが、異なる組織が運用するメールサーバー間の通信は、暗号化される保証がない。
一方ビジネスチャットでは、通信がサービス事業者で完結するので、クライアントとサーバー間さえ暗号化されていれば安全性が担保される。
一般的にビジネスチャットでは、サーバーとクライアント間でメッセージを暗号化し、サーバーへの到達時に復号する。そして再度暗号化して保存する。
だがビジネスチャットには欠点もある。同じビジネスチャットサービスを利用する相手としかメッセージをやりとりできない点だ。このため社外の人とやりとりしたい場合には、まず相手が利用しているサービスを尋ねる必要がある。異なるサービスを使っている場合には、どちらかが相手のサービスを使う必要があるが、企業のセキュリティーポリシーなどにより許可されないことがある。
また同じサービスを利用している企業同士でも、どちらかが社外とのやりとりを制限している場合には利用できない。
一方メールは仕様がオープンで標準化されているために、異なる製品やサービス間の相互運用性が担保されている。異なるベンダーのメールサーバー同士でも、異なるクラウドメールサービス同士でも、相手のメールアドレスさえ分かればメッセージを届けられる。
ビジネスチャットでもメールアドレスは必要
ビジネスチャットがメールに取って代われない理由はほかにもある。メールアドレスの存在である。メール以外にメッセージをやりとりする手段がなかった時代、インターネット利用者ならメールアドレスを取得するのは当たり前だった。その歴史的経緯から、メールアドレスはインターネットにおけるIDとして機能している。
例えば、EC(電子商取引)サイトやSNS(交流サイト)といったWebサービスのアカウントをつくる際には、メールアドレスの入力が求められる。ビジネスチャットの多くでも、アカウントをつくるにはメールアドレスが必要だ。
メッセージのやりとりにメールが使われなくなっていったとしても、メールアドレスはIDとして使われ続けるだろう。