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 量子コンピューターへの期待は高まる一方で、新聞や雑誌で記事を見かける機会が増えてきた。しかし量子コンピューターの活用事例や導入効果などの情報を目にすることはまだないだろう。なぜなら量子コンピューターは、今すぐ現場で使えるような状態ではないからだ。

 量子コンピューターは将来的に非常に大きなビジネス上のインパクトをもたらすと考えられている。しかし日常的に利用するにはまだいくつもの技術課題を解決する必要がある。

 だからこそ企業にとって、量子コンピューターのPoC(概念検証)に自ら挑戦し、その特性を見極め、どのような業務に適用可能か把握することが重要なのだ。まだ誰も量子コンピューターを活用できていない今だからこそ、PoCを始める意義がある。

 本連載では、量子コンピューターのPoCをこれから検討するユーザー企業があらかじめ理解すべきポイントを解説する。量子コンピューターの現在の技術レベルや将来活用が期待されている分野、既にPoCを始めている企業の狙い、企業がこれから検証すべき内容などを紹介しよう。

 今回は、そもそも量子コンピューターとは何で、どうすごいのかについて見ていこう。

スーパーコンピューターとは異なる用途

 量子コンピューターについて「スーパーコンピューターを超える、大規模な計算が可能なマシン」とのイメージを持つ人もいるが、その理解は正確ではない。量子コンピューターで現行方式のコンピューターよりも効率的な計算が可能になるのは、量子コンピューター用に開発された特定のアルゴリズムを使用する場合だけだ。現在のスーパーコンピューターで実行できるあらゆる計算を、量子コンピューターで代替できるわけではない。

 量子コンピューターが動作する際の基本的な単位は「量子ビット」だ。現行方式のコンピューターにおけるビットが、0と1の2種類の状態を持つのに対し、量子コンピューターの量子ビットは、0と1という2つの状態を同時に保持できる。例えば、20%の確率で1、80%の確率で0になるという、0と1が重なった状態を1つの量子ビットで保持できるのだ。この特徴を「重ね合わせ」と言う。

 量子ビットは、0から1までの間の状態を無限にとることが理論的には可能である。量子コンピューターは、1つの量子ビットが保持できる大きな情報量をうまく利用することで、大規模な計算を実現する。

 量子ビットは0から1までの間の状態を無限にとることが理論的には可能であると述べたが、計算し終わった後の量子ビットがどのような状態か人間が観測すると、0か1かのどちらかしか得られない。実際に20%の確率で1、80%の確率で0という重ね合わせ状態の量子ビットを何度も観測してみると、10回に2回の確率で1が観測されて、10回に8回の確率で0が観測される。従って、どんなに大規模な情報を量子ビットに乗せたとしても、最終的に得られる結果は0か1のどちらか1つだけなのである。

計算量を削減できるアルゴリズムが考案

 量子コンピューターにおける「1つの量子ビットで0から1までの間の状態を無限にとれる」「計算結果は0か1のどちらか1つしか取り出せない」という不可思議な2つの特徴をうまく利用することで、現在のコンピューターよりも効率的に計算ができるアルゴリズムが、これまでにいくつか考案されている。

誤り訂正ができる大規模な量子コンピューター(FTQC)向けのアルゴリズム
将来の量子コンピューターで動く、計算量削減が保証されたアルゴリズム
アルゴリズム名主な応用例
ショアのアルゴリズム素因数分解、暗号解読
グローバーのアルゴリズムデータ検索
量子振幅推定(QAE)期待値計算、金融工学
量子位相推定(QPE)量子化学計算
HHLアルゴリズム逆行列計算、有限要素法、流体計算など
誤り訂正ができない小~中規模な量子コンピューター(NISQ)向けのアルゴリズム
現在から近い将来の量子コンピューターで動く、計算量削減の保証がないアルゴリズム
アルゴリズム名主な応用例
変分量子アルゴリズム(VQE)量子化学計算、最適化
量子回路学習(QCL)機械学習

 ビジネスへの応用が期待されているアルゴリズムの1つが、検索を実行するグローバーのアルゴリズムだ。現行方式のコンピューターを使って検索した場合にO(n)回かかる処理がO(√n) 回で完了する。