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 2022年5月26~28日に和歌山県田辺市で開催された「サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」の3日目、デジタル庁の楠正憲統括官が「俊敏なデジタル社会とサイバーセキュリティの両立へ向けて」と題し講演した。新型コロナウイルス禍での政府のシステム開発を巡る混乱を振り返りつつ、同庁で進める国と地方自治体のシステム改革を語った。

デジタル庁の楠正憲統括官
デジタル庁の楠正憲統括官
(撮影:日経クロステック)
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 楠統括官は2021年9月にデジタル庁が発足した際、民間企業から採用され同庁統括官に就任した。同庁のデジタル社会共通機能グループ長として、マイナンバー制度やデータ戦略、クラウド、ネットワーク、自治体システム標準化などを担当している。マイナンバー制度との関わりは長く、デジタル庁発足前の2011年から番号制度推進管理補佐官として、2012年から政府CIO補佐官としてマイナンバー制度関連の情報システムに携わってきた。

短期間でサービスをデリバリーする初めてのチャレンジ

 政府CIO補佐官当時は新型コロナ禍において、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」や特別定額給付金のオンライン申請、ワクチン接種記録システム「VRS」の開発などを進めてきた。「COCOAや特別定額給付金のオンライン申請では、(国として)短期間でサービスをデリバリーするという初めてのチャレンジでもあり、ずいぶん苦しんだ」(楠統括官)。

 COCOAを巡っては短期間でリリースまでこぎ着けるに当たり、開発だけでなく、調達、制度、技術者コミュニティーとの連携などで様々な課題があったという。「政府の情報システムは通常1~2年かけて決められたものをつくる。(COCOAでは)ベンダーも含めて、走りながら(アプリの仕様などが)どんどん変わっていった。全く違う世界がコロナ禍で明らかになった」(同)。

 特別定額給付金のオンライン申請では、政府の方針決定から2週間で申請を受け付け始める必要があった。ただ、給付に必要な住所などの住民情報は、自治体が保有するものでそもそも国は持っていない。そのため、自治体が発送する紙の申請書には住民情報が記載されていたものの、国がシステムを提供したオンライン申請を使うに当たり、改めて住民が住所などを入力する必要があり、混乱の一因となった。

 COCOAや特別定額給付金のオンライン申請での課題や教訓を踏まえて取り組んだのが、VRS開発だったという。ワクチン接種は自治体内で完結する事務である。そのため、住民が1回目接種と2回目接種の間に引っ越しをするなど、自治体をまたぐ場合の接種記録の扱いが課題となった。

 そこで楠統括官らは、自治体という枠を超えて接種記録を統合的に入力・管理するシステムとしてVRSを開発し、国がサービス提供者となって自治体に提供するように変えた。国は住民情報を持たないため、あたかもSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)ベンダーのように自治体にVRSを提供したわけだ。

 一部でワクチン接種券の読み取り不具合などが生じたものの、「VRSでは『国がここまでやるのか』というものまで、何とかやりきれた」(同)。